参考論文
Dana, J. D., & Spier, K. E. (2018). Bundling and quality assurance. RAND Journal of Economics, 49(1), 128–154.
1. 品質シグナリングのメカニズムとしてのバンドリング
企業が高品質な製品を継続的に提供しているということは、消費者にとっては直接観察できません。そこで、企業が高品質であることを示す(シグナルを送る)必要があります。そのためには、低品質商品を出す企業には真似できない(するのが非合理)な行動を取ることで、分離均衡を作る必要があります。バンドリングは、そのシグナル手段となります。
- というのも、バンドルされた製品の一つに問題があれば、セット商品全体が売れなくなる可能性があるからです。
- バンドリングを行うことで、その一つでも品質が期待に満たない場合に報復する手段を消費者にあえて与えます。この事実により、消費者に高品質であることを信頼をもって信じさせることができます。
→ 消費者は、バンドル全体の品質に基づいて判断するため、企業は全製品の品質を高く保つ必要があります。
→ 1つの商品の品質が低くなった場合、セット全体の購買停止につながるため(品質を下げることの損失が大きくなる、企業にとって「一貫した高品質」が最善戦略となるのです。それを消費者に理解させることで、高品質であるということをシグナリングすることができます。
このように、バンドリングによって企業は「自社は高品質を提供できる」ということを信頼性ある形でシグナリングできるのです。
2. なぜシグナリングとして機能するのか?
論文は「完璧ではないプライベートモニタリング(imperfect private monitoring)」という現実的な条件を前提としています。このような環境では:
- 消費者個人が得られる品質情報は限定的である。
- それゆえに、企業が信頼されるには、自らコストを払って信頼を築く必要がある。
ここでバンドリングを行うことは、「一つの商品の品質に問題があればすべての売上が失われる」というリスクを企業があえて取ることを意味します。つまり、バンドリングを行い複数商品を束にすることは、その一つでも品質が期待に満たない場合に報復する手段を消費者にあえて与えるということです。
つまり、バンドリング戦略そのものが「品質に自信のある企業しかできない」行動=シグナリングになっているのです。そして、将来的にも、バンドル商品のうちの各商品の品質を落とさない、ということを消費者に信じさせることができます。
3. アンブレラ・ブランディングとの差別化
似た戦略に「アンブレラ・ブランディング」がありますが、論文では次のように差別化されています:
- アンブレラブランド:消費者が片方の製品に問題を感じても、もう一方を買い続ける可能性がある(制裁が弱い)。
- バンドリング:一つでも問題があれば全体が売れなくなる(制裁が強い=信頼性の高いシグナルになる)。
この違いが、バンドリングがより強力な品質シグナリング手段である理由です。
結論
この論文は、「バンドリングは単なる価格戦略ではなく、**企業の品質を信頼させる“行動による言葉”**として機能する」と明確に論じています。
「高品質であることを信じてもらいたいなら、束ねて売る」というのがこの論文から導かれる、非常に強力なメッセージです。
この記事は役に立ちましたか?
もし参考になりましたら、下記のボタンで教えてください。
コメント