参考論文
Mussa, M., & Rosen, S. (1978). Monopoly and product quality. Journal of Economic Theory, 18(2), 301–317.
企業が価格戦略を考えるとき、「いくらで売るか」だけでなく、「誰が、どの品質に、いくらまでなら追加で払ってくれるのか」という視点が重要です。
1978年の経済学論文、Mussa & Rosen「Monopoly and Product Quality」は、まさにこの問いに答える理論的な枠組みを示しました。そして、この理論の最大の発見は次の点にあります:
異なるWTP(支払意思額)を持つ顧客に対して単一品質の商品を出すより、複数の品質・価格の組み合わせを用意したほうが、企業の利益は大きくなる。
なぜ「単一品質」では利益が取り切れないのか?
たとえば、iPhoneのようなスマホを考えてみましょう。
- 単一品質(=中間スペック)で10万円の製品を出した場合:
- WTPが15万円ある顧客からは、5万円分の価値が取りこぼされる(=消費者余剰)。
- WTPが8万円の顧客は、そもそも買わない。
つまり、高WTP層からはもっと取れたはずの利益を取り逃がし、低WTP層にはリーチできないという中途半端な結果になります。
重要なのは、高品質であることに追加で払ってもよいと考える額が人によって違うということです。この違いを利用して、自己選択メカニズムを作り利益を大きくすることができます。
「複数品質×価格」の戦略が利益を最大化する理由
Mussa & Rosenの理論に基づけば、次のような構成が最適です:
- 高品質×高価格(例:Proモデル) → 高WTP層に最大の利益を引き出す
- 中品質×中価格(例:スタンダードモデル) → 平均的なWTP層を取り込む
- 低品質×低価格(例:廉価モデル) → WTPが低い層にも手が届く
こうすることで、それぞれの層から「支払意思」に応じた価格を引き出すことができ、結果として総利益は単一品質戦略よりも確実に大きくなります。
戦略の鍵:「意図的な品質の差別化」
ここでのポイントは、高品質な製品だけを用意するのではなく、あえて品質を落とした廉価商品も設計することです。これにより、低価格に敏感な層がそれを選びつつ、高WTP層は「やっぱり上位モデルに価値がある」と感じてくれる。
安いものを「お得」にしすぎてしまうと、高価格商品の魅力が薄れ、カニバリゼーション(自社製品同士の食い合い)が起きるため、ここも戦略的なバランスが重要になります。
実例:利益最大化のための製品分化戦略
- Apple:iPhone SE(廉価版)~ Pro Max(ハイエンド)までを揃え、高WTP層と低WTP層の両方から最大利益を獲得。
- 航空業界:エコノミー、プレミアムエコノミー、ビジネスクラスと価格帯を分け、サービスも明確に差別化。
- ソフトウェア/SaaS:無料プランで間口を広げ、Pro/Enterpriseプランで高機能を提供し高単価化。
まとめ:WTPの違いを読み解くことが利益設計の鍵
単一品質の商品をすべての顧客に向けて提供することは、一見シンプルでコストも低いように思えますが、実は大きな利益機会を捨てていることになります。
顧客の「品質プレミアムに対する支払意思(WTP)」の違いを前提に、
- 品質ごとの商品ラインを設計し、
- 価格と価値を慎重に対応させ、
- すべての層から最適な売上を引き出す
こうした価格×品質戦略こそが、今後の市場での差別化と利益成長の鍵になるのです。
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