参考論文
Anton, J. J., Biglaiser, G., & Vettas, N.(2014)『Dynamic Price Competition with Capacity Constraints and a Strategic Buyer』International Economic Review, 55(3), 943–958.
はじめに
複数の売り手が存在し、製品は耐久財であり、供給に限界があるとき、買い手はどのように振る舞えばよいのか?
これは企業購買や政府調達など、現実の多くの場面で直面する重要な問いです。
今回は、Anton, Biglaiser, Vettas(2014)の論文「Dynamic Price Competition with Capacity Constraints and a Strategic Buyer」をもとに、買い手の戦略について考えます。
生産能力に制限がある売り手の戦略
以下のようなケースを考えます。
①2社の売り手A,Bが同質材で競争する
②2社の売り手の生産能力はそれぞれ2
③注文を受けた後、生産には時間がかかる
このような場合、戦略的な売り手はある種の協力をする可能性があります。例えば、1期目の需要が2で、2期目の需要が1の時、
一期目において売り手Aが価格競争に追随せずに売り手Bよりも高い価格を設定し、一期目の需要2を売り手Bにあえて譲ることで、売り手Bの二期目での生産能力を無くし、二期目の需要を売り手Aが独占する というような共謀です。 このように顧客を取り合おうとしない場合、価格競争が起きないため価格は高く設定されることになります。
売り手は自身の供給能力に制限があるとき、あえて競合他社に顧客を譲ることで、価格競争を避けることができるのです。買い手としたら、「今日の購入が明日の市場構造を左右する」ことになります。このような売り手の戦略により調達コストが増えてしまうことになります。
以上のようなケースで、売り手はどのような戦略的行動をすればよいのかというのがこの記事で扱う内容です。
戦略①:分割購入による競争の維持
1つ目の戦略は、複数の売り手から少しずつ買う(分割購入)ことによって、将来の競争を意図的に残すという方法です。
たとえば、今ある売り手Aにまとめて2単位の注文を出すと、彼のキャパシティは枯渇して、次の期間では売り手Bだけが残ります。
結果、Bは独占状態になり、高い価格をふっかけてくるでしょう。
そこで、戦略的な買い手はあえて「1単位ずつ、AとBに分けて発注」します。
これにより、第2期間でもA・Bの両者が残り、競争が維持されるというわけです。
戦略②:将来の購入を放棄すると宣言
ところが、上の戦略には落とし穴があります。
売り手は買い手の“分割行動”を予測して、最初から価格を引き上げる可能性があるのです。
そこで注目されるのが第2の戦略:「私はもう後では買いません」とあらかじめコミットメント です。
- 売り手に「今しかチャンスがない」と思わせることで、顧客をあえてライバルに譲ろうとする売り手のインセンティブを無くさせるのです。
。上で確認した通り、売り手が将来の販売を考慮する場合、現在の価格競争を控えてあえて競合他社に需要を譲る場合があります。これを防ぐために、将来の需要がない、と思わせることで、今期の販売での価格競争を促進することができます。
戦略③:垂直統合(サプライヤーを買収)
さらに大胆な戦略が、「供給者そのものを買収してしまう」というものです
これにより、
- 自社グループに1つの供給源を確保
- 残る売り手が独占できない構造を作り出す
- → 結果として、長期的な調達コストを削減可能
まさに、戦略的調達とM&Aが結びつく場面です。
まとめ
この論文は、「供給側の戦略」ばかりが注目されがちな価格競争モデルにおいて、買い手の戦略的行動が価格形成・競争構造にどれほど大きな影響を与えるかを示したものです。
供給制約がある市場では、売り手の戦略的行動によって価格競争が起きにくくなり、買い手は不利になります。しかし、買い手も戦略的に動けば、将来の価格上昇を防ぐことができます。
買い手は、分割購入、将来の購入放棄の宣言、供給者の買収など、供給側の行動に影響を与える強力なツールを持っており、これらを活用することで調達市場の競争を活性化し、調達コストを抑えることができます。
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