株式会社エコノミクス&ストラテジー

サプライヤーはなぜ“川下の価格競争”を促すのか?――交渉力を背景にした戦略的アプローチ

参考論文

Tyagi, R. K. (2001). Why do suppliers charge larger buyers lower prices? Journal of Political Economy, 109(3), 561–585


■ はじめに

サプライヤーにとって、川下(最終財)市場の価格競争はどのような影響をもたらすでしょうか。一つの重要な観点は川下市場での価格競争は川下企業の利益を圧迫し、そのしわ寄せがサプライヤーに来る恐れがあるということです。つまり、サプライヤーに対する価格引き下げ圧力が強まる作用が発生します。

しかし、もしサプライヤーが川下企業に対して強い交渉力を持っている場合はどうでしょうか? 例えば、その部品をほかの市場に対しても仕入れているという場合です。

この時、最終財市場での価格競争は市場全体の需要が拡大させ、それに伴いサプライヤーの出荷量・売上も増えるという作用が相対的に強くなります。例えば、「Tyagi, R. K. (2001). Why do suppliers charge larger buyers lower prices? 」という論文は、サプライヤーが川下市場での価格共謀を崩して売上を増やす戦略を提示しています。ここでは、サプライヤーが川下市場での競争環境を操作して、価格競争を促す戦略を検討します。


ケース

あくまでも事例として、スマホ市場を考えます。最終財市場では、アップルのアイフォンとサムスン、Vivoが競争しているとします。その部品市場である液晶パネル市場では、自社(A社)とサムスンの部品部門が競っているとします。この時、アップルがサムスンから部品を調達する場合、最終財市場でのサムスンの値下げインセンティブが小さくなります。というのも、サムスンとしては自社スマホを値下げしてアイフォン売上を減らすと、液晶外販売上が得るという負の作用が発生するからです。つまり、アップルがサムスンから液晶パネルを調達するようになると、サムスンのインセンティブ構造が変化し、最終財市場での価格競争が和らいでしまうのです。最終財市場での価格競争を激しくし市場を大きくしたいと考えるA社(自社)としては、アップルがサムスンから液晶パネルを調達しないようにすることで、サムスンのアンドロイド値下げ意欲を大きくすることができます。

つまり、A社としては、サムスンから部品を調達しようとするアップルに対しては低い価格を提示し、サムスンから買わせないようにする戦略が効果的な場合があります。

より一般化すると、部品メーカーとしては、垂直統合している会社から最終財メーカーが部品を仕入れないようにすることで、最終財市場での価格競争を発生させることができる、ということです。

このような形で、サプライヤーは川下のインセンティブ構造を操作して、価格競争を促すことができます。

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