株式会社エコノミクス&ストラテジー

参入阻止戦略におけるフリーライダー問題

参考論文

Waldman, M. (1987). Noncooperative Entry Deterrence, Uncertainty, and the Free Rider Problem. The Review of Economic Studies,


はじめに

企業が市場での地位を守るために講じる戦略の中でも、参入阻止戦略は極めて重要です。寡占市場では、既存の企業が新規参入者の侵入を防ぐために様々な投資や行動を取ります。しかし、それが複数の企業による非協力的な状況下で行われるとき、フリーライダー問題が生じる可能性があります。Michael Waldmanの論文は、この問題を「不確実性」の観点から深く掘り下げています。

過剰生産能力が新規参入を抑止する

フリーライダー問題

参入阻止のための投資(例:余剰生産能力の構築)は、しばしば市場全体に利益をもたらす公共財的性質を持ちます。つまり、ある企業が参入阻止に投資しても、その恩恵は同業他社にも及びます。このため、各企業が「他社が投資してくれるだろう」と期待し、自らは投資を控えるというフリーライドが起こり、結果的に投資水準が最適よりも低くなるのです。

不確実性が与える影響

これまでの研究では、参入阻止に必要な投資額が「確実に」分かっている前提でモデルが構築されており、その場合にはフリーライダー問題はあまり顕著ではないとされてきました。ところがWaldmanは、投資の効果や参入の可能性に「不確実性」が存在する場合、話は大きく変わると指摘します。

たとえば、必要な投資額が曖昧である場合、企業は「自分が投資しても参入を防げるか分からない」と感じ、投資を控えがちになります。その結果、寡占全体としては参入阻止のための投資が過少になり、結果的に新規参入を許してしまうリスクが高まるのです。

実務への示唆

この分析は、以下のような現実の戦略策定に対して重要な示唆を与えます:

  • 参入阻止投資の性質を理解する:その投資が純粋な参入阻止なのか、それとも追加的な収益を生むのかによって、企業の行動は大きく異なる。
  • 不確実性を管理する:不確実性が高い状況では、企業間での調整や共有戦略の設計が不可欠になる。
  • 政策的視点:過少投資によって競争が過度に制限されないようにしつつ、過剰投資による資源の無駄も避けるバランスが求められる。

結論

Waldmanの研究は、「参入阻止戦略」におけるフリーライダー問題の発生条件を明確にし、特に不確実性がそれを増幅する重要な要因であることを示しました。今後の戦略立案や政策設計においても、企業間のインセンティブ構造と投資の公共財的性質を理解し、適切な対応を図る必要があります。

この記事は役に立ちましたか?

もし参考になりましたら、下記のボタンで教えてください。

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。