参考論文
Hilke, J. C. (1984). Excess capacity and entry: Some empirical evidence. The Journal of Industrial Economics, 33(2), 233–240.
はじめに
企業が市場における優位性を保とうとする中で、新規参入をいかに阻止するかは重要な戦略課題の一つです。価格競争やブランド力といった明示的な要素に加えて、近年注目されているのが「過剰能力(excess capacity)」の活用です。
Hilke, J. C. (1984)は、過剰能力が実際に新規参入を抑制しているかを実証的に検証した研究の一つです。本稿では、その内容を踏まえつつ、企業がどのようにして新規参入を阻止することができるかを読み解いていきます。
過剰生産能力の役割
過剰生産能力とは、企業が持つ設備能力のうち実際には使用していない余剰部分のことです。この過剰生産能力が参入阻止に役立つのは、既存企業が余剰設備を利用して価格を引き下げる余地を持つからです。
一般的に新規参入企業が参入を踏みとどまるのは、参入したとき既存企業が価格攻撃をしてくるという恐れからです。一方で、もし既存企業が余剰生産能力を持ち合わせていない場合どうでしょうか。過剰生産能力を持っていないと、実際に生産量をすぐに増やして価格を引き下げることができないため、「値下げするぞ」という脅しが信じてもらえなくなります。新規参入者は「本当に値下げできないはず」と考え、参入を強行しやすくなるのです。つまり、参入されたら値下げするという脅しが非現実的(非確証的)に見えるため、抑止力がなくなるのです。
この値下げの脅しを有効にするのに、過剰生産能力は不可欠なのです。言い換えると、
- 「これだけ余裕があるから、価格競争になっても応じられる」
- 「参入してきても、すぐに値下げして生産量を増やしてシェアを奪い返せる」
というシグナルを潜在的な参入社に送ることができます。
実証分析
Hilke, J. C. (1984).では、1950年から1966年にかけてのアメリカの製造業16業種を分析した結果、過剰能力の変数(EXおよびEXNA)は、いずれも参入に対して負の影響を持つ(=参入を抑える)という予想通りの結果となりました。特に以下の業種では過剰能力の導入により、モデルの予測精度が大きく改善されました。
- ウェットコーンミリング(トウモロコシ加工)
- 清涼飲料水
- 石油
- エレベーター産業
これらの業界では、実際に過剰能力を戦略的に保持することで、参入企業の数が抑制されていた可能性があるのです。
まとめ
参入された時に値下げを行うという脅しを有効にするためには、過剰生産能力は必要不可欠です。過剰生産能力を戦略的に持つことで、参入を抑止できるかもしれません。
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