参考論文
Taylor, G. (2017). Raising search costs to deter window shopping can increase profits and welfare. The RAND Journal of Economics, 48(2), 387–408.
はじめに
店舗やウェブサイトに多くの人が訪れても、なかなか購入に至らないという悩みを抱える企業は多いのではないでしょうか。こうした「ウィンドウショッピング」は、見込み客獲得のチャンスと捉えられる一方で、実際には販売リソース(人員・時間・広告費など)の浪費につながることもあります。
Greg Taylor( 2017)という論文は、この問題に対し「検索コスト(search cost)」を用いた戦略的な対処法、いわば検索コストを用いたコスト削減法を提案しています。本記事では、その内容を企業戦略の観点からご紹介いたします。
検索コストとは
検索コストとは、顧客が商品やサービスの詳細情報を得るために必要な、時間的・金銭的・心理的なコストのことを指します。
例えば次のようなものが該当します:
- 高級ブティックでの事前予約や試着料(例:Vera Wangではかつて500ドル)
- 自動車ディーラーでの事前「試乗資格審査」
- ウェブサイト上で価格を非公開にし、問い合わせが必要な形式
一見すると、顧客の利便性を下げているように思えますが、テイラー氏の研究は、これらが販売リソースを無駄なく効率的に活用する戦略になり得ることを示しています。
検索コストによる消費者のふるい分け
テイラー氏のモデルでは、消費者は自分自身の「興味度(購入意欲)」を知っていますが、企業側は誰が真剣な購入者であるかを事前には分かりません。
ここで企業は「検索コスト」というハードルを設定することで、「本気度の高い消費者」だけをふるいにかけ、営業活動を集中させることができます。
つまり、検索コストは以下のような役割を果たします:
- 関心の低い顧客を自然と排除
- 営業コストを節約
- 本気の顧客に対してサービス品質を高める
この戦略によって、売上の効率化だけでなく、企業と顧客の両方にとっての利益(厚生)が高まることが、モデルによって明らかになっています。
検索コストを用いた戦略の実例
- 価格を見せない(価格開示には会員登録が必要)
- 試着・相談に有料制を導入(ドレス、家具、車など)
- 敷居の高さを演出(ドアマンがいる、価格非表示、完全予約制など)
このような取り組みは、「冷やかし客」を遠ざけているようで、実際は「本気の顧客」への優れた体験提供につながっているのです。
戦略的示唆
① 高付加価値の商品は「誰にでも売らない」ことがカギです
高価格帯の商品や、個別対応が必要なサービスでは、来店者すべてに手厚く対応することは困難です。そこで「関心の高い顧客」だけが自然に来店するような仕組みが望まれます。
② 検索コストは“情報戦略”でもあります
価格や商品情報をすべて公開すると、比較対象にされるだけで終わってしまうこともあります。あえて情報の一部を「隠す」ことは、興味の高い層との接点を持つための重要な選別手段です。
③ 来店した顧客にはリソースを集中投下しましょう
検索コストを乗り越えて来た顧客には、接客やカスタマイズ対応などで満足度を高めましょう。結果的に、**顧客生涯価値(LTV)**の最大化につながります。
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