株式会社エコノミクス&ストラテジー

顧客の本当の支払意欲を見抜く:補完財を活用した価格差別

企業が売上を伸ばすための施策は数多く存在しますが、その中でも非常に強力な手法のひとつが「価格差別(Price Discrimination)」です。

価格差別を行うには、本来、**顧客ごとにその商品に対してどれだけの価値を感じているか(=支払意思額)**を知る必要があります。
しかし、これを正確に把握するのは非常に困難です。
たとえば、顧客にインタビューをしても、顧客側はできるだけ安く買いたいため、本音で支払意思額を伝えてくれるとは限りません。

そこで有効な手法が、顧客の自己選択に基づいて評価額を推測する方法です。
その具体的な方法が、商品の補完財も同時に販売する、という戦略です。

これにより、顧客がどれくらい補完財を消費するかを観察し、間接的にその商品の評価額を推定することができます。

価格差別とは何か?

価格差別とは、顧客の支払能力や支払意欲に応じて異なる価格を設定することを指します。
なかでも「二次価格差別(Second-Degree Price Discrimination)」は、顧客の行動(購入量など)に応じて間接的に価格を変える方法であり、事前に顧客の属性を知らなくても実施できる点が特徴です。

たとえば、ある企業がプリンター(基本財)を販売する場合、購入者によってその価値の感じ方(=プリンターへの需要)は異なります。
ここで、インクカートリッジ(補完的財)を併売し、その消費量に応じて基本財の価格を請求することで、プリンターへの需要が高い顧客からより多くの収益を得ることが可能になります。

補完的財を「メーター」として活用する

重要なポイントは、補完的財の購入量が、基本財に対する評価の高さを示す「サイン」になっているという点です。

  • インクを大量に購入する顧客=プリンターに高い価値を感じている
  • インクをほとんど買わない顧客=プリンターへの評価が低い

この違いをうまく利用することで、企業は自然に高評価の顧客から多くの収益を引き出すことができるのです。
つまり、補完的財を「計測装置(メーター)」として使うわけです。

実際のビジネス事例

過去にはIBMが、自社のコンピュータと一緒に自社製のパンチカードだけを使用するよう顧客に義務付ける戦略をとったことが知られています。
また、Xeroxもコピー機本体を安く販売し、コピーごとに課金するビジネスモデルを構築しました。

これらの事例はいずれも、

  • 基本財(コンピュータ、コピー機)への評価に応じて
  • 補完的財(パンチカード、コピー用紙・使用量)から収益を上げる
    戦略を体現しているのです。

価格差別による売上向上のポイント

企業が価格差別を効果的に使うためには、次の点がカギとなります。

  • 補完的財の販売を通じて顧客の価値を測定する仕組みを作る
  • 裁定(転売や他社品購入)を防ぐ仕組みを設計する
  • 基本財を魅力的な価格に設定して市場を広げる
  • 補完的財で段階的に高需要者からより多く回収する

このアプローチをとることで、顧客の多様な支払意欲をうまく取り込むことができ、結果的に売上の向上と市場シェアの拡大につながります。

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