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バンドリングは本当に「悪」なのか?――品質維持という正当化理由

参考論文

Dana, J. D., Jr., & Spier, K. E. (2018). Bundling and quality assurance. The RAND Journal of Economics, 49(1), 128–154.


はじめに

独占禁止法の分野では、製品のバンドリング(抱き合わせ販売)やタイイング(結び付け販売)は、しばしば市場支配力の乱用競争制限的行為として問題視されてきました。
しかし、Dana, J. D., Jr., & Spier, K. E. (2018)は、バンドリングが品質保証のメカニズムとして機能し、社会的厚生(経済全体の効用)を改善しうるという理論的根拠を提示しています。

この記事では、当該論文の議論を整理し、バンドリングの正当性を法的にどのように主張できるかという観点から解説します。


バンドリングの法的論点について

● 独占禁止法上の一般的な立場

バンドリングやタイイングは、以下のような懸念から規制対象となる場合があります:

競争制限的効果(市場支配の維持・他社排除)

消費者選択の制限(自由な選択肢を奪う)

判例においても、バンドリングは「違法性が推定される類型」として取り扱われることがあり、慎重な対応が求められます。


バンドリングの品質保証(改善)メカニズム

Dana & Spier(2018)は、このように競争上害のあるとされるバンドリングが、消費者厚生を改善させる可能性があると主張しています。次のような市場環境を仮定します。

・対象商品は「経験財」(=購入・使用するまで品質がわからない商品)

  • 消費者は商品購入後に、不完全かつプライベートな品質の信号を受け取ります。
  • 高品質を維持するには、**消費者のモニタリングと制裁行動(=購買停止など)**が不可欠です。

この状況下において、バンドリングには以下のような効果があると論じられています。

効果の種類内容
監視の強化消費者が複数の商品を同時に体験することで、品質の異常を検出しやすくなります。
制裁の強化一部の商品に不満があれば、バンドル全体の不買という強力な制裁が可能になります。
フリーライダー抑制「他の人が品質を見てくれるだろう」という無責任な行動を防止します。
企業の自律的品質管理一部でも品質を下げると、全体に悪影響が及ぶため、企業が全商品に対して品質を維持するインセンティブを持ちます。

3. 法的実務への応用:バンドリングを正当化する論拠として

Dana & Spier のモデルを応用することで、以下のような主張が法律実務において可能となります。

● 品質保証を目的としたバンドリングは、合理的な商慣行である

  • 消費者満足や安全を維持するには、一定の組み合わせで商品を提供することが必要な場合があります。
  • バンドルを解体すると、品質の責任所在が曖昧になり、ブランド信頼が低下するリスクも高まります。
  • 企業が「品質保証のためにバンドリングしている」という合理的な説明ができる場合、それは競争制限目的とは異なる正当な理由として認められる余地があります。

● 米国判例との整合性(Mercedes-Benz事件など)

  • 1987年の「Mozart Co. v. Mercedes-Benz of North America Inc.」判決では、ディーラーが正規部品のみを使用するというバンドル的契約について、品質管理目的があるため合法であると判断されました。
  • Dana & Spier の理論は、このような判例に対する経済理論的な裏付けを提供します。

4. バンドリングが厚生を改善する理論的根拠

論文では、モデルを用いて以下の点を示しています。

  • 通常の単品販売では、企業は品質を維持するインセンティブが不十分になることがあります。
  • しかし、バンドリングを行うことで、高品質が維持されやすくなり、消費者・企業の双方にとって利益がある状態が成立します。
  • 特に、企業の割引率(将来の利益をどれだけ重視するか)が低くても、バンドリングを行うことで高品質の均衡が維持できるのです。というのも、バンドリングにすることによって、もし一方の商品の品質を下げてしまうと、セット全体が買われなくなる可能性がある、すなわち品質を下げることに対する消費者からの罰則が相対的に大きくなるからです。

法務上の示唆

法務・競争当局への説明や主張として、以下のような論点が有効と考えられます。

・バンドリングには、企業に対し製品品質の保証、維持を促す効果があります。

・バンドリングを一律で禁止してしまうと、企業の品質維持インセンティブが弱くなることで、高品質が維持されにくくなり、消費者厚生を悪化させてしまう可能性があります。


おわりに

本論文は、「バンドリング=競争制限的である」という従来の見方に対し、
バンドリング=品質保証を通じた厚生改善メカニズム」という新たな視点を提供しています。バンドリングを禁止してしまうと、企業の品質維持インセンティブが弱まり、品質維持がなされなくなる結果、消費者厚生が低下してしまう可能性があるのです。

バンドリングに対して批判的な目が向けられがちな法的実務の場面においても、本論文の示唆を活用することで、合理的かつ経済厚生を促進する行為であることを主張できます。法務上バンドリングを考える際の試金石となる理論と言えるでしょう。

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