株式会社エコノミクス&ストラテジー

競合他社の生産コストを上げる戦略

競合が“値下げしたくなくなる”環境をつくる──利益構造から攻める静かな競争戦略

価格競争を和らげるためには、競合他社の値下げ意欲を下げることが重要です。値下げ意欲を下げる手段の一つに、競合他社の限界生産コストを高くする、というものがあります。生産コストを高くなりマージンが小さくなると、値下げして販売量を増やすことで得られる利益も小さくなるので、値下げ意欲が弱くなるのです。競合他社の生産コストを高める戦略を理論化したのが、1987年に発表されたSalop & Scheffmanの「コスト引き上げ戦略(Cost-Raising Strategies)」です。


競合のコストを引き上げる7つの実践的手段

1. リソースの先取り(Overbuying)

広告枠、原材料、人材などを先に大量に押さえることで、市場全体の調達コストを上げる
競合は高値で仕入れるしかなくなり、利益幅が縮小。無理な値下げがしづらくなる。


2. 排他的契約で選択肢を封じる

取引先や販路に対して独占的な契約を結ぶことで、競合の調達・販売チャネルを制限する
動きが鈍くなれば、価格を変える戦略にも制約が出てくる。


3. 規制やルールで相手にだけ負担をかける

制度設計や認証制度などに関与し、自社には負担が軽く、競合にとっては新たな対応コストが発生するような枠組みをつくる。
とくに新規参入や規模の小さな競合にとっては、コスト上昇が直撃する。


4. 垂直統合で供給ルートを支配する

サプライチェーンの上流にある会社を買収・連携し、競合が必要とする原材料や技術の価格や流通をコントロールする
結果として、相手の製造コストが上がり、価格を柔軟に動かせなくなる。


5. 広告・開発への強力な投資で競争水準を底上げする

自社が積極的に広告・研究開発に資金を投入することで、業界全体の競争基準が高まる。
競合も対抗せざるを得ず、そのぶん固定費が増える。値下げをしても吸収できる余地が狭くなる。


6. 非互換な技術で切り離す

あえて独自仕様の製品やシステムを展開し、周辺機器や連携先に適応コストをかけさせる
競合が追随しようとすれば、開発や対応に余計なコストが必要になる。


7. 政策・法規制に影響を与える(ロビー活動)

業界団体や行政との連携を通じて、特定の要件や条件を制度化することで、競合の運営コストに影響を与える。
表向きは公平なルールでも、設計次第でコストの負担先を変えることができる。


まとめ:値下げさせない環境は、つくれる

競合が仕掛けてくる前に、利益の取りづらい土壌を整えておく。
そうすれば、無理な価格勝負を仕掛けられることは減り、自社の収益性も守ることができます。

目に見える「価格」ではなく、相手の中で動く「損得勘定」こそが勝負の本質
静かに、しかし確実に差を広げる方法として、コストに目を向ける戦略を選んでみてはいかがでしょうか。

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