参考論文
Sun, M. (2011). Disclosing multiple product attributes. Journal of Economics & Management Strategy, 20(1), 195–224.
戦略的な非開示とは?
情報があふれる現代において、企業は製品のあらゆる特徴を積極的に開示するのが常識と思われがちです。しかし、独占的ポジションにある企業が、あえて特定の情報――特に消費者の好みに左右される「水平的属性(製品のスタイル、見た目、使い勝手など)」――を隠すことで、より広範な市場をカバーし、利益を最大化するという逆説的な戦略が存在します。
本稿では、Monic Sun氏の研究に基づき、情報開示が企業戦略に与える影響を「製品の質(垂直的属性)」と「顧客の好みに依存する特性(水平的属性)」の交差点で読み解きます。
2. 高品質=情報開示しない?
一般的に「良いものは宣伝すべき」という考え方が支配的ですが、本研究はまさにその逆を提案します。垂直的な品質がすでに市場に知られている場合(例:雑誌の受賞歴、ブランドの評判など)、企業は水平的な属性の情報を開示しないことで「期待」を保持し、より広範な消費者層に訴求しようとします。
たとえば、The New Yorkerのような高品質雑誌は無料試読を提供せず、「読んでがっかりするかもしれない」というリスクを消費者に感じさせないようにしています。これは試読により、自分の好みと合わないと判断されるリスクを避け、購買意欲を維持するための戦略的な非開示です。
3. 水平属性の開示が市場を狭める理由
情報開示によって得られる「適合性の確認」は、特定の消費者にとっては有益ですが、市場全体にとっては需要を狭めるリスクがあります。開示によって「これは自分に合わない」と判断されると、売上が減少する可能性があるのです。
特に、高価格で市場を制したい独占企業にとって、水平的な情報開示は価格維持を困難にします。たとえば、医療保険のプランが「眼科サービスが弱い」とわかれば、眼科重視の顧客は離れ、価格を下げざるを得なくなるからです。
4. 逆に、なぜ低品質企業は開示するのか?
一方、品質に自信がない企業ほど、水平属性の積極的な開示を行います。これは「自分にとって最適かもしれない」と消費者に思わせることで、競争力を確保しようとする戦略です。
たとえば、格安ホテルが「空港近く」「無料Wi-Fi」「朝食付き」と訴求するのは、全体の質は劣っていても、特定のニーズを満たすことで需要を得ようとする試みです。
戦略的示唆:いつ情報を隠すべきか
戦略論的に見た場合、以下のような条件下では非開示が有効な戦略となり得ます:
- 製品の垂直的品質が市場で既に高評価を得ている場合
- 水平的属性がニッチで分極化している(好みが分かれる)場合
- 顧客の選好が不確かで、開示によるミスマッチが売上減につながるリスクがある場合
まとめ:沈黙は戦略である
マーケティングの常識を覆す「開示しない戦略」は、高品質・高価格を武器にする独占企業にとって有効な選択肢です。情報過多の時代だからこそ、あえて語らないことが「全体的な高品質イメージ」を維持し、価格と需要を最適化する鍵となるのです。
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