参考論文
Pastine, Ivan, and Tuvana Pastine. “Consumption Externalities, Coordination, and Advertising.” International Economic Review, vol. 43, no. 3, 2002, pp. 919–943.
~消費者の期待を動かす新しい広告戦略~
広告の役割は「説得」だけではありません
従来、広告は商品の魅力を伝えたり、購買を促したりする「説得」や「情報提供」の手段とされてきました。しかし近年の経済理論では、広告がそれだけでなく、消費者の行動を調整する装置として機能することが明らかになっています。
とくに、他人の選択が自分の満足度に影響を与える「消費外部性」が強い市場では、広告のもつ意味合いが大きく変わります。
消費外部性とは何か?
消費外部性とは、自分の消費行動が他人の行動に影響を与えたり、逆に他人の行動によって自分の満足度が変わることを指します。
たとえばファッションやSNS、OSなど「みんなが使っているからこそ価値がある」商品では、消費者は他人の選択を強く気にします。このような市場では、何が選ばれるかという“空気”が、商品の価値そのものを左右するのです。
広告は「空気」をつくるシグナルです
消費者は他の人と同じ商品を選びたいと思ったとき、何を手がかりにすればよいのでしょうか。そこで重要になるのが広告です。
たとえば、同じ性能・価格のスニーカーが2種類あった場合、広告が多く打たれている方が「人気が出そう」「他の人も買うはず」と思われやすくなります。こうして広告は、消費者の間で共通の期待をつくる“シグナル”として働くのです。
価格より広告が強い武器になることもあります
消費者の選択が互いに影響しあう市場では、企業の広告投資が消費者の行動を大きく左右します。広告量が多ければ、たとえ価格が高くても選ばれる可能性があります。
反対に、いくら価格を下げても、広告が少なければ選ばれないこともあります。このような市場では、広告によってブランドに“プレミアム”がつくことさえあります。
広告戦争が引き起こすチキンゲーム
企業同士が「自社ブランドを消費者の共通選択にしたい」と考えれば、広告合戦が始まります。どちらも引けないこの競争は、チキンゲームのような構造になります。
広告費が膨らむ中で、どちらかが先にあきらめると、もう一方の企業が市場の支配権を一時的に握ります。この勝者は、広告費用を回収できるほどの利益を得ることが可能です。
若年層・ネットワーク商品では特に有効です
この広告の調整機能は、若者向けの商品やネットワーク効果が大きい分野でより強く現れます。たとえばSNSやゲーム、OSなどは「他人と同じであること」が重要視されるため、広告が期待の形成に直結します。
企業は広告によって、「みんなが使うブランド」の地位を目指すことができるのです。
これからの広告戦略に必要な視点
広告を「情報を伝えるもの」や「説得の手段」としてだけでなく、「消費者の期待を調整する装置」として位置づけることで、企業はより戦略的な広告運用が可能になります。
市場に存在する“空気”を読み、その空気を自らの広告でつくり出す視点が、これからの広告戦略において重要なカギとなります。
この記事は役に立ちましたか?
もし参考になりましたら、下記のボタンで教えてください。
コメント