参考論文
Thanassoulis, J. (2004). Haggling over substitutes. Journal of Economic Theory, 117(2), 217–245.
はじめに
商品を販売する際、消費者にどのような選択肢を与えるか、それは価格差別の手段として機能します。企業は、自社商品に対して高い支払意思額(いくらまでなら払ってよいと考えるかという額)を持つ人には高く売りつつ、支払意思額の低い人には低い価格を提示し顧客として取り込むことで、利益を大きくできます。
John Thanassoulis(2004)は、供給制限を主張する”ことによって消費者の自己選択を引き出し、価格差別を実現して利益を最大化する戦略を示しました。
ケース
2つの代替財(例:赤い車と青い車、同じ車種)を販売する状況を考えます。平均で見たら、色にこだわりがある人の方が色にこだわりのない人よりも、こだわりの強い分購入に高い値段を払ってもよいと思うでしょう。この時、2つの色の車をそれぞれ一律価格で販売する場合、次のようなジレンマに直面します。それは、色にこだわりのない消費者を多く取り込みたい(そのためには価格を少し下げないといけない)一方で、同時に色にこだわりのある人に対しては高い価格を付けて利益を得たいというジレンマです。一律価格だと、これをするのは不可能です。
そこで、販売者は次のような条件を提示します:
「在庫の都合により、希望通りの色の車を提供することができないかもしれません。ただ、追加料金を払ってもらえる場合には、希望通りの色の車を確実に提供できます。」
この販売手法の特徴は:
- 消費者が自由に選択できる選択肢(定価・確実)と、
- 不確実な選択肢(割引・内容は未確定)が並列で提示される点にあります。
この戦略の目的:消費者の自己選別
この仕組みによって、消費者は次のように分かれます:
- 好みに強い消費者は「欲しい色が確実に手に入らないなら損だ」と考え、割高価格で購入する
- こだわりのない消費者は「どちらでも構わないから安い方が良い」と考え、割高価格を払わない
このように、売り手は消費者の選好強度に基づいて価格差別を実現できます。自己選択メカニズムにより、こだわりの強さごとに顧客を分離することができるのです。
口実としての在庫制限
重要なのは、在庫制限、供給制限は本当に存在する必要はない、という点です。
- つまり、売り手は「在庫と供給に制限がある」と装って主張することで、あたかもランダムな割り当てになるような販売オプションを作り出し、その結果、価格に敏感な色にこだわりのない消費者だけに割引価格を選ばせ、こだわりのある人に割高価格を請求できるようになります。
- 在庫制限を口実に「もし追加料金を払ってもらえない場合には、希望する色の商品を確実に提供することはできない」ということで、価格差別を実現できるのです。
くじ販売とメカニズムは同じ
Thanassoulis, J. (2004)は、この戦略が本質的に「くじ引き販売」と同じ構造を持つとしています。
- くじ引き販売とは、上の例でいうと3つのオプションを提示して販売することを言います。
- ①赤の車を高価格で販売
- ②青の車を高価格で販売
- ③50%で青の車を入手でき、50%の確率で赤の車を入手できるくじを低価格で販売
これにより、企業は値引きを必要とする層だけに届けることができ、利益を維持することができます。
まとめ
Thanassoulis(2004)の理論は、在庫制限、供給制限(たとえそれが主張に過ぎなくても)を用いて、消費者を選別する戦略が理論的に有効であることを示しています。消費者の「こだわり」の強さごとに、誰が割引を受け、誰が定価を払うかが自発的に決まるような、メカニズムを構築するのです。つまり、販売設計における「選択の条件」を調整するだけで、消費者余剰を利益に取り込むことができるのです。
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