株式会社エコノミクス&ストラテジー

バンドル販売はなぜ利益を大きくできるのか:複数商品の価格戦略

参考論文

Adams, W. J., & Yellen, J. L. (1976). Commodity bundling and the burden of monopoly. The Quarterly Journal of Economics, 90(3), 475–498


はじめに

独占企業が、相互に代替性のない複数の商品を持つとき、それぞれに独立した価格を設定して販売する方法と、それらをセット(バンドル)として一括で販売する方法が考えられます。例えば、マイクロソフトはwordやExcelといった代替性のない商品を、Microsoft Officeというセット商品にして売っています。

経済学では、独占企業はバンドル販売(commodity bundling)を用いることで、個別販売よりも高い利益を上げられるという理論があります。Adams, W. J., & Yellen, J. L. (1976)は、その基礎的な理論を構築したものとして知られています。


なぜバンドル販売は利益を大きくできるのか

バンドル販売による利益増加のメカニズムには、以下のような経済的理由があります:

まず、消費者の支払い意欲の違いを活用できるという理由です。

消費者は商品Aと商品Bに対して、それぞれ異なる支払い意欲(予約価格)を持っています。2商品の限界生産コストは0であるとします。
たとえば、単純化しすぎですが市場に以下の二種類の消費者が半々ずついるとします。

  • 消費者1:商品Aに100円、商品Bに60円の価値
  • 消費者2:商品Aに60円、商品Bに100円の価値

この時、商品AとBを個別で売る場合、それぞれに60円の価格を付けることで利益最大化できます。ですがこのやり方だと、消費者1の商品Aに対する余剰(100-60=40)を利益として取り込むことができません。

一方で、AとBをバンドルにして合計価格を160円に設定すれば、消費者の余剰のすべてを利益に転化することができ、企業の総売上・利益は増加します。

より一般化していうなら、バンドル販売することによって消費者余剰の回収が容易になるということです。個別販売では、消費者の「支払い意欲と価格の差=消費者余剰」が大きく残ってしまいます。
バンドル販売を用いることで、各商品の価値を合算した全体的な支払い意欲に基づいて価格を設定できるため、独占企業はより多くの消費者余剰を回収しやすくなるのです。


成立する条件

この利益増加作用が成立する条件として、「各顧客の2商品の評価額の関係について、負の相関の傾向があるか、あるいは独立である」ということです。

一方の商品に価値を感じている顧客ほど、もう一方の商品に価値を感じる傾向にある、というような正の相関がある場合、バンドルによる利益向上は見込めなくなります。


ケース

Word(文書作成)とExcel(表計算)を個別に販売するより、Microsoft Officeのようにスイートで販売する方が、全体としての価値が高くなり、価格も引き上げやすい。

  • 一部のユーザーはWordだけに高い価値を感じ、別のユーザーはExcelだけに高い価値を感じている場合、バンドル価格をうまく設計すれば両方のユーザーに、両方の商品を購入させられるのです。

ケース2時間的バンドル

あるサービスにおいて、複数期間分の料金をセットで一括で販売するというのは、時間的バンドルと解釈できます。もし、期間ごとの支払意思額に負の相関がある場合には、この時間的バンドルによって利益を大きくすることができます。例えば、あるレストランの料理などは、ある週に食べたら次の週には食べたい気持ちは小さくなる(支払意思額が小さくなる)場合があります。この時、2週分をセットとして販売することによって、消費者の余剰を取り切り利益を大きくできる場合があるのです。


注意点

このバンドルによる利益増加効果は、複数商品について独占販売している企業について有効です。競争する企業同士が、この記事で扱っているように複数商品をバンドル化して競争してしまうと、価格競争が激しくなり利益が小さくなってしまいます。


まとめ

バンドル販売は、ただ「まとめて安くする」戦略ではありません。
消費者の異なる支払い意欲を組み合わせて、より多くの利益を得るための合理的な価格戦略です。

特に支払い意欲が「分散している(負の相関)」場合には、個別販売よりも効果的な手法となります。
企業は自社の商品がこの条件に当てはまるかを見極め、バンドル販売の導入を検討することで、利益の最大化が可能になるかもしれません。

この記事は役に立ちましたか?

もし参考になりましたら、下記のボタンで教えてください。

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。