参考論文
Braverman, A., Guasch, J. L. & Salop, S. (1983) Defects in Disneyland: Quality Control as a Two-Part Tariff. Review of Economic Studies, 50(1), 121–131.
はじめに
Braverman, Guasch, Salop(1983)という論文は、理論的にはわざと製品に不良品を混ぜ、そのリスクを保証プランでカバーし、保証プランに入るか入らないか消費者に選ばせることで、大量購入層と少量購入層を分離するという自己選択メカニズムを作ることができると示しました。この自己選択メカニズムによる価格差別を行った場合、単にすべての消費者に一律価格を提示する場合よりも利益を大きくすることができます。驚くべきことに、仮にコストをかけずに不良品数をゼロにすることができたとしても、不良品をあえて一定数混ぜたほうが、価格差別を行うことができるため企業にとって利益が大きくなる可能性があるのです。この記事では、不良品とその保証を使った価格差別手法について紹介します。
故意の不良混入と保証オプションによるメニュー設計
- 消費者が一定期間内に複数購入するような商品を仮定します。消費者には、多くの量を買う大量購入層と、あまり買わない少量購入層がいるとします。
- この時、以下のような販売オプションを企業は提示します。
まず企業は、コストをかけずに完全無欠の製品が作れるにもかかわらず、企業はあえて一定割合で不良品を混在させます。不良品は全く価値がなく、買換えが必要であるとします。そして、顧客が購入された商品について、「いくら欠陥が出ても無償で交換します」というプランを有償で提供します。
つまり、以下の二つの販売オプションを消費者に提示します。
- 保証なしプラン:購入した商品について、不良品だった場合自腹で買い直す必要がある。
- 保証ありプラン:最初に一定の保証料を払えば、不良品があれば一定期間内で何度でもタダで交換できる。
このオプションは、「大量購入者は保証ありプランを買い、少量購入者には保証なしプランを選ばせるという自己選択メカニズム」として機能します。そして、大量購入者には固定料金としての保証料を通じて高い料金を引き出すことで、価格差別を実現できるのです。
この自己選択が生まれる理由は以下の通りです。大量購入者ほど、確率論的に、購入数が多い分購入した商品の中に一定数不良品が混じっている可能性が高くなります。そのため、保証なしで商品を多く買うことのリスクが大きくなり、保証に入ることが合理的になります。一方で、少量購入者は購入する商品数が少ないため、不良品が多く混じる可能性が低くなるため、保証料を払ってまで保証に入る必要がなくなるのです。
保証に入らないと実質価格が高くなる仕組みと自己選択
- 保証未加入者の負担増
壊れるたびに同じ商品を再購入しなければならず、その分だけ1個あたりの実質的な支払いが増えてしまいます。 - 自己選択メカニズム
- 大量購入層は、購入数が多い分不良品が一定数混ざっている可能性が高く、再購入負担が大きいため、一度保証料を払ってでも低い単価を確保したいと感じ、「保証あり」を選びます。
- 少量購入層は、購入数が少ない分不良品が混ざっている可能性が低く、再購入リスクが小さいため、保証料を払わないほうが得と判断し、「保証なし」を選びます。
- このような分離均衡が生まれ、消費者は自分の購入量イメージに応じて最適なオプションを選択し、その選択が重/軽利用を自己選択で分離できます。
- 重要なのは、名目上(店頭での販売上)の価格は、保証に入らなくても入っても同じであっても、実質的な価格は、買換えリスクがある分、保証に入らないほうが高くなるということです。大量購入者ほど、高い実質価格で大量に買うことが損になるため、保証に入ることが合理的になります。そして、この保証料を通じて、大量購入者から多くの余剰を引き出すことができるのです。
二部料金制との共通性
この保証の有無による自己選択メカニズムは、会員制料金と同じメカニズムです。
会員制とは、会員料を払い会員になった人には、一回利用価格を割安で提供するという販売手法です。カラオケ店などでこの手法がとられています。来店回数の多いヘビーユーザーほど、会員になることによる割引の利益が大きくなり、会員料金を払って会員になることが得になります。一方でライトユーザーは、利用回数が少ない分会員になるメリットが小さいため、会員費を支払うインセンティブが弱いです。このような自己選択メカニズムによる価格差別を通じて、ヘビーユーザーから会員費を取ることを通して、企業は利益を大きくすることができます。
この記事で取り上げた保証プランの有無による価格差別は、この会員制のメカニズムとまったく同じです。違う点は、会員制は会員か否かで店頭で提示する価格が異なる一方で、保証プランによる価格差別では、保証プランに加入していてもしていなくても店頭での提示価格は同じという点です。(ですが、買換えリスクが存在し実質価格は保証プランの有無で違うため、会員制と構造は同じになっているのです。)
まとめ
一般的には、不良品の数が少なければ少ないほど良いと考えられています。ですが、Braverman, A., Guasch, J. L. & Salop, S. (1983)は、「不良品を混ぜることで、企業は利益を増やせる場合がある」という逆説的示唆を与えました。重利用者ほど買い直し負担が大きくなることを利用し、保証オプションで自己選択的に市場を分割することで、価格差別が実現可能なのです。
この論文が示すような不良品を意図的にまぜたり増やしたりすることは、実際には法律で禁止されています。また、消費者向けに売る場合には、保証プランに入ったかにかかわらず不良品の交換をしなくてはならないことが消費者保護法で義務図けられる場合が多いため、この記事のような販売手法は実施不可能です。この記事の内容は、当事者間の契約自由の原則が適用されやすいto B商品販売において、わざわざ多額のコストをかけて生産物における不良品数をゼロにしようとしているのなら、それをする必要はないかもしれないという示唆を与えます。(故意に不良品数を増やすことは法律で禁止されていますし公序良俗に反します)むしろ不良品が混じっていたほうが、販売オプションの工夫次第では利益を大きくできるかもしれない、という示唆を与えるものとして理解するのが良いでしょう。
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