株式会社エコノミクス&ストラテジー

好みの違いを利益に変える価格差別:バンドル販売による自己選択メカニズム②


参考論文

Pavlov, G. (2011). Optimal mechanism for selling two goods. The B.E. Journal of Theoretical Economics


はじめに

ある企業が、2つのオプションで商品サービスを提供している時、以下のような問題を抱えることがあるかもしれません。それぞれ2つにこだわりの強い消費者には高く売りたい一方で、好みが中立的でこだわりの弱い、支払意思額の小さい消費者も獲得したい、というジレンマです。

つまり、こだわりの弱い人も顧客として獲得したいが、そのために価格を下げてしまうと、高い価格でも買ってくれるこだわりの強い顧客からの利益が減ってしまう、というジレンマです。

このジレンマを解決する方法として、バンドル販売を紹介します。この手法は、Pavlov, G. (2011)という論文が紹介しています。

この記事の内容の意義は、代替性のある商品同士のバンドリングにより価格差別を実現する手法を扱っている点です。独占企業が、代替性のない商品同士のバンドリングによって、個別に価格を付けるよりも利益を大きくすることができるというのは、産業組織論の中でよく知られた有名な理論です。実際の事例でいうと、マイクロソフトはwordやExcelといった代替性のない商品を、Microsoft Officeというセット商品で売ることで、個別販売する場合と比べて利益を大きくしています。

一方でこの記事で扱うのは、代替性のある2商品をバンドリングして販売オプションの一つに加えることによって、2商品を選ぶ際の好みのこだわりが強い顧客とこだわりの弱い顧客を分離し、価格差別を行うことで利益を大きくすることができるというテクニックです。一般的にはあまり有名ではないですが、非常に有用で強力な理論です。



ケース

以下の例を考えます。ある町で、ある会社が二つのゴルフ練習場を運営しているとします。それぞれ、街の端である地点Aと地点Bに位置しているとします。異なるのは立地だけで、サービスは全く同じだとします。この時、AとBの中間周辺に住んでいる人は、移動コストがかかる分支払意思額が低く、AとBどちらのゴルフ練習場を好むかについてこだわりが弱いです。反対に、A(B)の近くに住んでいる人は、近所のゴルフ場への移動コストが小さい分、支払意思額が高いです。
この会社が、両ゴルフ場の中間周辺に住んでいる人に対しては低い価格を提示して顧客として取り込みながら、それぞれのゴルフ場の近所に住む人には高く売ることで、利益を大きくするにはどうすればよいでしょうか。 どこに住んでいるかを消費者から聞き出して提示価格を変える、という手法は一般的には難しいです。消費者は嘘をつくことで得することができるからです。
この時、以下のような3つのオプションを顧客に提示するのが良いでしょう。

①A地点のゴルフ場一回分の入場券
②B地点のゴルフ場一回分の入場券
③A地点一回、B地点一回の計二回分のバンドル入場券を、割安で

この3つの販売オプションを顧客に提示します。そして、③の料金を、①や②の料金の二倍の額よりも小さくすることで、中間周辺に住む人には③の2回分入場券を、A(B)地点の近くに住む人には、毎回①(②)を購入するよう促します。A地点の近くに住む人は、近所のゴルフ場に行くことにプレミアを払っても良いと考えるため、③の券の一回当たりの額と比べて①の入場券料金を高く設定できます。このようにバンドル商品を販売オプションに取り込むことで、両ゴルフ場の中間に住む人に対しては、③の選択肢を通じて低い価格で売り顧客として取り込みつつ、両ゴルフ場の近所に住む人には高く売ることができ、利益を大きくできるのです。


割引の活用

バンドルという形式以外にも、以下のように自己選択メカニズムを作ることができます。


施策①  A(B)のゴルフ場の過去のレシートを持ってB(A)のゴルフ場に行き購入することで、割引される(あるいはポイントが付く)という仕組みにするという施策が考えられます。

施策②  Aのゴルフ場で、Bのゴルフ場限定で適用される割引クーポンを配布する施策も考えられます。逆もしかりです。

施策③  AとBの両方のゴルフ場のスタンプを集めれば割引されるという仕組みでもよいでしょう。

これらの手法により、以下のような自己選択を促します。
2つのゴルフ場の中間周辺に住む、こだわりの弱い人(移動コストがかかるためその分支払意思額の低い人)については、この割引制度を使うことが合理的であり、実質的に安く入場券を買えるようになるため、彼らを顧客として取り込むことができます。
一方で、それぞれAとBの近所に住む人は、この割引制度は利用しません。この割引は、彼らにとって反対側の遠くのゴルフ場に行かないと受けられず、移動コストがかかってしまう分魅力的ではないからです。

顧客の自己選択の結果として、両ゴルフ場の中間に住む支払意思額の低い人については、割引制度を利用させることを通じて顧客として取り込めると同時に、両ゴルフ場の近所に住む人については、この割引制度を利用しないため、実質的に高く売ることができます。このようにして価格差別が実現でき、消費者余剰を漏れなく利益に変換できるのです。

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