参考論文
DeGraba, P., & Mohammed, R. (1999). Intertemporal mixed bundling and buying frenzies. The RAND Journal of Economics, 30(4), 694–718.
はじめに
企業が商品を売るだけではなく、消費者の心理を動かし、熱狂的な購買行動を生み出す──そんな仕組みがあるとしたら?
アメリカのロックコンサート市場で実際に用いられている販売手法に、「時間をまたいだ混合バンドル販売(Intertemporal Mixed Bundling)」という戦略があります。この仕組み、ただのセット販売ではありません。消費者の“不安”を巧みに利用し、通常の価格設定では得られない高い利益を企業にもたらす手法なのです。
DeGraba, P., & Mohammed, R. (1999)という論文に基づき、この熱狂を利用する混合バンドル戦略を取り上げます。一般的な熱狂バンドル販売の、特殊形態ということができるでしょう。
一般的な混合バンドル販売の欠点
一般的な「混合バンドル販売」は、商品をバンドル(セット)と個別の両方で販売する戦略です。混合バンドル販売をすることで、両商品への評価が一定水準を越している人の余剰をバンドル商品で取りきると同時に、一方の商品への評価が著しく低い人についても個別商品の購入へと促し顧客として獲得することができます。
この一般的な混合バンドル販売の弱点としては、個別商品販売というオプションを出すことで、バンドル商品を購入することが損ではない層(バンドル商品購入による効用が正になる層)の一部が、個別商品販売の商品に流れてしまうということです。当然のことながら、個別販売ではなくバンドル販売へと顧客を促したほうが、企業の利益は大きくなります。
つまり一般的な混合バンドル戦略の強みは、バンドル販売のみでは取り逃がしてしまう顧客を個別販売で獲得できる点にありますが、それにより、元々バンドル商品を買ってくれていた顧客の一部が個別販売に流れてしまうという問題が発生してしまうのです。
この記事で扱う、熱狂を用いた混合バンドル戦略では、このような欠点を補うことができます。
一般的な混合バンドル理論的には、バンドル価格は個別価格の合計よりも安くなるのが普通です。ですが、熱狂を用いた混合バンドル戦略ではそれが逆転します。バンドル価格が、個別価格の合計よりも高いという現象が見られるのです。
二段階販売が生み出す“購買の熱狂”
この戦略では販売が2段階で行われます。
- 第1期間:バンドル(例:2公演分のコンサートチケット)としてのみ販売。
- 第2期間:売れ残りを個別に販売。
ここで起こるのが、「購買の熱狂(Buying Frenzy)」です。顧客”は、「あとで個別で買えるかもしれないけど、売り切れるかも」と考え、リスクを避けてバンドルを購入するようになるのです。消費者を「今買わなきゃ!」という心理状態にさせ、元々個別商品を買うのが合理的だった顧客をバンドル購入へと促せるのです。
つまり、企業は供給不足という状況を「演出」することで、消費者に高値でのバンドル商品の即時購入を促すわけです。何より重要なのは、本来だったら個別商品のみを買うはずだった顧客に対し、「購買の熱狂による売切れの懸念」を持たせて、バンドル商品を購入させることができるということです。例えば、コンサートAは絶対行きたいが、コンサートBは買わなくてもよいかなと思っている人がいるとします。その人は、バンドル商品の購入は損ではないが、コンサートAのチケットを単品で買うだけで満足であると思っているとします。この顧客に、「購買の熱狂による売切れの懸念」を持たせて、「バンドル販売が行われている第一期間に売り切れてしまい、単品販売の第二期間まで待っているとチケットAが取れないかも」…と思わせ、Bを含んだバンドル商品を買わせることができるのです。つまりバンドル販売を通じて、本来買う予定のなかった商品も買わせることができ、前述した一般的な混合バンドルの欠点を改善することができるのです。
購買の熱狂を起こし、第二期の供給不足を顧客に予想させることで、バンドル商品を買うのは損にはならないが単品を買ったほうが利得が大きくなるような顧客層に、バンドル商品を買うよう促せるようになるのです
そして非常に重要なのは、第二期に、実際に供給不足を起こす必要は必ずしもないということです。一方の商品への評価が著しく低く、バンドル商品を買うのはどうしても損であると考えて第一期にバンドル商品を買わなかった層を、第二期の個別販売を通じて獲得することで、利益を大きくすることができます。つまり、一般的な混合バンドル販売の長所も維持できます。ただ重要なのは、第二期での供給不足を顧客に予想させる、という点です
この戦略が有効になる条件
この仕組みが機能するためには、以下の条件を満たす必要があります。
- 顧客が他の顧客もバンドルを買うと予測すること
→ みんなが買うから私も買う、という“熱狂”の連鎖が起きる。つまり、他の人も焦って買うだろう、ということを各顧客に予想させることが、企業にとって重要です。
ケース
この戦略はコンサートだけに限りません。以下のような業界での応用が期待できます:
- ホテル・旅行業界:2泊セットのみ先行予約可、1泊だけは直前に個別販売
- ソフトウェア販売:プレミアム機能はセット購入でしか手に入らず、後で単品販売
- 飲食・小売業:期間限定セットを先に販売、余った食材だけ後日安売り
この記事は役に立ちましたか?
もし参考になりましたら、下記のボタンで教えてください。
コメント