株式会社エコノミクス&ストラテジー

確率的販売による価格差別

参考論文

Pavlov, G. (2011). Optimal mechanism for selling two goods. The B.E. Journal of Theoretical Economics


はじめに

ある企業が、2つのオプションで商品サービスを提供している時、以下のような問題を抱えることがあるかもしれません。それぞれ2つにこだわりがある消費者には高い価格を設定したい一方で、こだわりの少ない中間的な消費者も獲得したい、というジレンマです。このジレンマを解決する方法として、確率的販売というものがあることを紹介します。この手法は、Pavlov, G. (2011)という論文が紹介しています。この確率的販売により、ある種の価格差別をすることができ、利益を大きくできます。


ケース

分かりやすいように、以下のケースを考えます。あるアーティストが九州に住んでいる人向けに、福岡鹿児島でそれぞれ同じ内容のライブを行いチケットを販売することを考えます。購入者がどこに住んでいるかを確認することができないため、彼らの住んでいる地域ごとに別々の価格設定を行うことはできないとします。福岡(鹿児島)の近くに住んでいる人は、福岡開催(鹿児島開催)のチケットへの支払許容額は高くなります。開催場所へのこだわりが強いということです。反対に、中間である熊本県に住んでいる人は、移動コストがかかるためその分チケットへの支払許容額が低くなります。開催場所へのこだわりも弱いです。理想としては、福岡と鹿児島に住む購入者に高い値段を提示し、中間の熊本に住む購入者に低い値段を提示することで利益を最大化できるのですが、仮定により購入者の住む地域を特定し居住地域ごとに別々の価格を提示することはできません。この時、以下のようなジレンマに直面します。

ライブを開催する2拠点から離れた、熊本などに住んでいる人も顧客として獲得したい。しかし、そのために価格を下げてしまうと、高い価格でも買ってくれるはずの福岡県民や鹿児島県民からの利益が減ってしまう、というジレンマです。

このジレンマを解決してくれるのが、確率的販売です。


確率的販売

確率的販売では、購入者に以下の3つのオプションを提示します。

①福岡でのチケットを高い値段で販売

②鹿児島でのチケット高い販売で販売

③50%の確率で福岡のチケット、50%の確率で鹿児島のチケットになるくじを、低い価格で販売

この3つを提示することで、福岡チケットと鹿児島チケットの評価額の差が小さい、こだわりの弱い熊本県の購入者には③のくじを割り当てることができます。そして、福岡チケットへのこだわりの強い福岡県民には、確実に福岡でのチケットを提供するオプション(①)を割り当てることで高い価格を設定することができます。鹿児島県民も同様です。こだわりの強い購入者は、場所が確定していることにプレミアを払ってもよいと考えるためです。つまり、この3つのオプションを提示することで、居住地域ごとに購入者を分離して、ライブ場所のこだわりの強い人には高い価格を、こだわりの小さい人には低い価格を提示することができます。このようにして、価格差別をして利益を最大化することができるのです。


モデル

実際の数値で確認します。

・単純化のために、福岡、熊本、鹿児島だけの購入者を考えます。それぞれ100人の購入者がいるとします。

・移動コストが0の時、ライブへの支払い許容額は一律2万であるとします。つまり、ライブ自体から2万円分の効用を得ることができるということです。

・福岡から鹿児島の移動コストは1万円、熊本から福岡の移動コストは0.5万円、熊本から鹿児島の移動コストは0.5万円と仮定します。

・購入者はリスク中立的であると仮定します。

福岡(鹿児島)に住む人の、福岡(鹿児島)でのライブチケットへの支払い許容額は2万円、熊本に住む人の福岡ないし鹿児島チケットへの支払い許容額は1.5万円です。 居住地域ごとに別々の価格を提示することはできないとします。

2つのチケットを販売する時、売上を最大にしようとすると、以下のようになります。福岡チケットを1.5万円、鹿児島チケットを2万円で売ることで、1.5×200+2×100=500万円の売上になります。この方法だと、福岡居住者の余剰0.5万円を取りきることができません。


次に、この記事で紹介している確率的販売を考えます。三つのオプションを購入者に提示します。

①福岡確定チケット1.99万円

②鹿児島確定チケット1.99万円

③半分の確率で福岡、半分の確率で鹿児島の確率くじ1.5万円

福岡の居住者は、③のくじを買うことで得られる効用は、

2×0.5+(2-1)×0.5-1.5=0円になります。そのため、①のチケットの方が得です。一方、熊本に住む人は、③のくじを買うことが得になります。

このように、消費者を分離させることができ、売上は

1.99×100×2+1.5×100=約550万円になります。

このように、確率的販売を行うことで、売上を増やすことができるのです。購入者の余剰を取り切り、売上を増やすことができるのです。


まとめ

複数の商品を出すとき、それぞれの商品への消費者の、こだわりの強弱ごとに別々の価格を提示することで利益を最大化することができます。一方で、各消費者のこだわりの強弱を企業が判別することは困難です。この記事では、確率的くじというオプションを追加することで、こだわりの強弱ごとに自然と消費者を分離することができ、異なる価格を設定することで利益を大きくできるということを紹介しました。

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