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混合バンドル戦略とは何か——純粋バンドルとの違いと利益向上のメカニズム

参考論文

Adams, W. J., & Yellen, J. L. (1976). Commodity bundling and the burden of monopoly. The Quarterly Journal of Economics, 90(3), 475–498


はじめに

複数の商品やサービスを組み合わせて販売する「バンドル戦略」は、現代の価格戦略において広く活用されています。中でも「混合バンドル(Mixed Bundling)」は、企業がより多くの利益を得るうえで、純粋バンドルを上回る柔軟性と効果を持つ手法として注目されています。本記事では、純粋バンドルの目的を踏まえつつ、混合バンドルがどのようにそれを拡張し、より大きな利益を可能にするのかを解説します。


バンドル戦略とは

バンドルとは、複数の商品やサービスをセットにして販売する価格戦略です。主に以下の2つの形態があります:

  • 純粋バンドル(Pure Bundling):商品をセットでしか販売せず、個別販売は行わない。
  • 混合バンドル(Mixed Bundling):セットでも販売しつつ、各商品を個別にも販売する。

たとえば、あるソフトウェア企業が「Officeスイート」としてワード、表計算、プレゼンの3製品をセット販売する場合、それが純粋バンドルです。そこに「ワードだけ」「表計算だけ」といった単品販売を加えると混合バンドルになります。


純粋バンドルの目的:評価が偏る顧客を取り込む

純粋バンドルの狙いは、商品の評価(支払意欲)が偏っている消費者をうまく取り込むことにあります。

たとえば、ある顧客が商品Aには高い価値を感じているが、商品Bにはあまり関心がない場合、個別販売では商品Bは売れません。しかし、AとBをセットにして「まとめて買ってもらう」ことで、Bの単体では売れなかった部分を、Aの評価に乗せて販売できるのです。

これは、企業にとって「低評価の商品も一緒に売ることで、売上全体を押し上げる」戦略であり、商品価値の相乗効果を活用する価格差別の一種です。


それでも取りこぼす:純粋バンドルの限界

しかし純粋バンドルには明確な限界があります。それは、片方の評価があまりにも低い消費者には、セット価格でも魅力を感じてもらえず、購入を断念されるということです。純粋バンドルでは、セット全体の価格が商品A単体の評価を超えてしまうと、商品Bの価値の低さが足かせになって購入を見送ることになるのです、

つまり、一方の評価が極端に低い消費者は、たとえ他方に強いニーズがあっても、純粋バンドルでは取り込めないのです。このように、Bの評価の低さが「購入の障害」になってしまいます。


混合バンドルの強み

混合バンドルは、この純粋バンドルの限界を補う手法です。

つまり、セット販売に加えて個別販売を行うことで、「一方の評価が極端に低い消費者」をも取り込むことができるのです。先の例でいえば、商品Aだけに高い評価を持つ顧客には、Aを単品で売ることができる。これにより、純粋バンドルでは失っていた売上を取り戻すことができるのです。

このように混合バンドルは、以下のような幅広い需要に対応できます:

  • 両方にある程度評価を持つ顧客 → セット販売
  • 一方にだけ高評価の顧客 → 個別販売

結果として、市場全体のカバレッジが広がり、より多くの顧客から売上を得ることが可能になります。


理論的な裏付け

この混合バンドルの優位性は、産業組織論においても理論的に証明されています。特に、

  • Adams and Yellen(1976)「Commodity Bundling and the Burden of Monopoly」

は、混合バンドルが消費者の評価の偏りをうまく捉えることで、純粋バンドルよりも広範な需要をカバーし、利益を拡大できることを示しています。


まとめ

もともと純粋バンドルは、「一方の商品にしか価値を見出さない消費者」をも取り込もうとする戦略です。しかしその効果には限界があり、評価の偏りが極端な場合には顧客を逃してしまいます。

混合バンドルは、その限界を打破する手段として有効です。個別販売を可能にすることで、純粋バンドルでは取りこぼしていた利益を補完・拡大できるのです。

企業が収益を最大化するためには、顧客の評価構造を的確に見極め、それに応じて柔軟にバンドルの設計を行う必要があります。混合バンドルは、そのための強力な戦略の一つなのです。

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