株式会社エコノミクス&ストラテジー

好みの違いを利益に変える価格差別:バンドル販売による自己選択メカニズム

参考論文

Pavlov, G. (2011). Optimal mechanism for selling two goods. The B.E. Journal of Theoretical Economics


はじめに

ある企業が、2つのオプションで商品サービスを提供している時、以下のような問題を抱えることがあるかもしれません。それぞれ2つにこだわりの強い消費者には高い価格を設定したい一方で、好みが中間的でこだわりが弱く、支払意思額の小さい顧客も獲得したい、というジレンマです。このジレンマを解決する方法として、バンドル販売というものがあることを紹介します。この手法は、Pavlov, G. (2011)という論文が紹介しています。このバンドル販売により、ある種の価格差別をすることができ、利益を大きくできます。

独占企業が、代替性のない商品同士のバンドリングによって、個別に価格を付けるよりも利益を大きくすることができるというのは、産業組織論の中でよく知られた有名な理論です。例えば、マイクロソフトはwordやExcelといった代替性のない商品を、Microsoft Officeというセット商品で売ることで、消費者余剰をより回収できるようになり理論的には利益を大きくできる、というものです。Adams, W. J., & Yellen, J. L. (1976). 「Commodity bundling and the burden of monopoly.」という有名な論文が取り上げています。以下の記事でも取り上げています。

一方でこの記事で扱うのは、代替性のある2商品をバンドリングして販売オプションの一つに加えることによって、2商品を選ぶ際の好みのこだわりが強い顧客とこだわりの弱い顧客を分離し、価格差別を行うことで利益を大きくすることができるというテクニックです。一般的にはあまり有名ではないですが、非常に有用で強力な理論です。


ケース

分かりやすいように、以下のケースを考えます。サントリー社はそれぞれ水平差別化された山崎NVと白洲NVを販売しています。(あくまで例として出しているだけです。サントリーが実際に以下のような戦略を取っているわけではありません)

購入者は1000ml分を購入しようとしているとします。顧客の中には、山崎NV(白洲NV)にこだわりがある購入者がいる一方で、どちらでもよいという中間的な購入者もいるはずです。山崎NV(白洲NV)にこだわりのある顧客は、山崎NV(白洲NV)への支払意思額が高くなります。反対に、どちらでもよいという中間的な購入者は、両商品への支払許容額が低くなっているはずです。理想としては、こだわりの強い購入者に高い価格を提示しこだわりの弱い購入者には低い価格を提示することで利益を最大化することができます。しかし、消費者のこだわりの強さを企業が見極めて、異なる価格を提示するというのは非現実的です。この時、以下のようなジレンマに直面します。

こだわりの弱い人も顧客として獲得したい。しかし、そのために価格を下げてしまうと、高い価格でも買ってくれるこだわりの強い顧客からの利益が減ってしまう、というジレンマです。このジレンマを解決してくれるのが、バンドル販売です。


バンドル販売

確率的販売では、購入者に以下の3つのオプションを提示します。

①山崎NV(1000ml)を高い値段で販売する

②白州NV(1000ml)を高い値段で販売する

③山崎NV(500ml)と、白州NV(500ml)のバンドル商品を低い価格で販売

この3つを提示することで、山崎と白州の評価額の差が小さい、こだわりの弱い中間的な購入者には③のバンドル商品を割り当てることができます。山崎へのこだわりの強い顧客には、1000mlの山崎である①を買わせることができます。白洲についても同様です。こだわりの強い購入者は、自分の好きなブランドにプレミアを払ってもよいと考えるためです。つまり、この3つのオプションを提示することで、好みの強さごとに購入者を分離して、こだわりの強い人には高い価格を、こだわりの弱い人には低い価格を提示することができます。このようにして、価格差別をして利益を大きくすることができるのです。


モデル

実際の数値で確認します。

・単純化のために、山崎NVが好きな人、白洲NVが好きな人、どちらでもよい中間的な人という3種類の購入者を考えます。それぞれ100人いるとします。

・山崎NVが好きな人は、山崎NVへの支払許容額は2万(1000mlあたり)、白洲NVへの支払許容額は1万(1000mlあたり)とします。

・白洲NVが好きな人は、白洲NVへの支払許容額は2万(1000mlあたり)、山崎NVへの支払許容額は1万(1000mlあたり)とします。

どちらでもよい中間的な人は、両商品への支払許容額はともに1.5万(1000mlあたり)とします。

2つのブランドを販売する時、売上を最大にしようとすると、以下のようになります。山崎を1.5万円、白洲を2万円で売ることで、1.5×200+2×100=500万円の売上になります。この方法だと、山崎にこだわりの強い人の余剰0.5万円を取りきることができません。


次に、この記事で紹介するバンドル販売を考えます。三つのオプションを購入者に提示します。

①山崎NV(1000ml)1.99万円

②白州NV(1000ml)1.99万円

③山崎NV(500ml)と、白州NV(500ml)のセットを1.5万円

山崎が好きな人は、③のセット商品を買うことで得られる効用は、

2×0.5+(2-1)×0.5-1.5=0円になります。そのため、①が得です。一方、こだわりのない中間的な人は、③のセット商品を買うことが得になります。

このように、消費者を分離させることができ、売上は

1.99×100×2+1.5×100=約550万円になります。

このように、バンドル販売を販売オプションに加えることで、価格差別を行い売上を増やすことができるのです。購入者の余剰を取り切り、売上を増やすことができます。


まとめ

複数の商品を出すとき、それぞれの商品への消費者の、こだわりの強弱ごとに別々の価格を提示することで利益を大きくすることができます。一方で、各消費者のこだわりの強弱を企業が判別することは困難です。この記事では、バンドル商品というオプションを販売メニューに追加することで、こだわりの強弱ごとに自然と消費者を分離することができ、異なる価格を設定することで利益を大きくできるということを紹介しました。

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