株式会社エコノミクス&ストラテジー

時間を活用した価格差別:耐久財市場における価格変動のサイクル

参考論文

Conlisk, J., Gerstner, E., & Sobel, J. (1984). Cyclic pricing by a durable goods monopolist. The Quarterly Journal of Economics, 99(3), 489–505.


はじめに

価格差別は企業が利益を最大化するための重要な手段です。支払い意欲の高い消費者には高く売り、支払い意欲の低い消費者に対しては低い価格を提示して顧客として取り込むことで、利益を大きくすることができます。特に耐久財市場では、一度購入された商品が長期間使われるため、再購入が頻繁に起こりません。したがって、価格差別が非常に重要になってきます。

これに対し、Conlisk, J., Gerstner, E., & Sobel, J. (1984)が提示したモデルは重要な示唆を与えます。このモデルは、各時期に新しい顧客が流入してくる市場環境において、耐久財市場において独占的な売り手が、価格を周期的に価格を変動させる戦略を行うことで、利益を大きくできることを示しました。


モデル

以下のような仮定を考えます。
・各時期において、新しい顧客が新たに流入してきます。新たに存在を知ったか、新たに需要を持った顧客が、各期にそれぞれ入ってきます。
・顧客には、支払い意思額の高いタイプと低いタイプがいます。
・販売する財は耐久財です。つまり、一度買ったら当面の間新たに買うことはないため、顧客は購入と同時に市場から退出します。

本来、1つの商品を1つの価格で売るだけでは、高い支払意欲を持つ消費者からも、低い支払意欲しか持たない消費者からも同じ利益しか得られません。そこで、以下のような時系列的な価格差別をすることが効果的とされています。


価格変動のサイクル

ステップ1.  売り手はまず、新たに市場に参入してきた人のうち、高い支払意欲を持つ顧客に向けて、高価格で製品を販売します。一定の期間にかけて、流入してくる顧客のうち支払意思額が高い顧客のみを対象に、高い価格を設定し続けます。

ステップ2.  時間が経過するにつれて、高価格では購入しない低支払意欲の消費者が市場に滞留していきます。各期に流入してくる支払意欲の低い消費者が市場に蓄積するのです。一定数以上の低支払意欲の消費者が蓄積した段階で、ある一期に売り手は一時的に価格を大幅に引き下げ、これらの消費者に向けたセールを実施します。このセールによって、市場に残っていた低意欲消費者を一括して購入へと導きます。

ステップ3.  セールによって低支払意欲の消費者が市場が一掃された後には、新たに参入してきた高支払意欲の顧客をターゲットに、再び高価格での販売を再開します。(再びステップ1に戻る)こうして、通常価格期間とセール期間を交互に繰り返すサイクルが形成されます。

このサイクルを無限に繰り返すことで、売り手は高支払意欲の消費者からは高価格で、低支払意欲の消費者からはセール時に低価格で、購入するように促すことで、価格差別を実現し利益を大きくすることができます。

このような周期的な価格操作によって、支払意欲の高い消費者からは高い利益を、低い支払意欲の消費者からも一定の利益を得ることができ、市場全体からより多くの利益を吸い上げることが可能になります。

この価格戦略の鍵は、低い支払意思額の人に対しては一度で売り切り、それ以外の時間では支払意思額の高い人のみを相手にすることで、利益を大きくできるという点です。


まとめ

この価格変動のサイクルを作り利益を大きくするという価格戦略は、各期(例えば一か月ごと)に新しい顧客が一定数流入してくる市場環境において、有効な戦略です。

基本的には価格を高く設定し、支払意思額の低い顧客がある程度貯まったら、一時的にセール販売をして取り込み、その後は高価格販売へと戻る、というサイクルを繰り返すことで、利益を大きくすることができるのです。

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