参考論文
Noh, Y.-H., & Moschini, G. (2006). Vertical product differentiation, entry-deterrence strategies, and entry qualities. Review of Industrial Organization, 29(3), 227–252
はじめに
市場を独占している企業は、新規参入を阻止することが重要です。独占禁止法に引っ掛からない参入阻止方法はいくつかありますが、ここでは品質の設定を工夫することが参入阻止につながるということを紹介します。具体的には、「あえて中間の品質を選ぶことで参入を阻止する」という戦略をご紹介いたします。
品質を工夫することで参入を抑止できるという視点は、Noh, Y.-H., & Moschini, G. (2006).が詳しく説明しています。
垂直差別化
品質に差がない場合、消費者は価格だけを基準にして購入を決定します。このような状況では、企業は「少しでも安く売らないと顧客を獲得できない」と考え、価格をどんどん下げていきます。こうして始まるのが、いわゆる「ベルトラン競争」と呼ばれる現象です。最終的には、商品が原価ギリギリ、場合によっては赤字価格で売られることになり、企業にとっては非常に過酷な環境となります。
一方で、競争する商品間で品質に差がある場合、つまり垂直差別化されている場合を考えます。たとえば、同じ自動車でも、あるメーカーは高性能で安全機能が充実した高級モデルを提供し、別のメーカーは基本性能を備えた廉価モデルを販売する場合を考えます。 重要なのは、消費者の中にも「高品質を求める人」と「安さを重視する人」がいるということです。品質が高いことに追加で何円払ってもよいと考えるか、という支払意思額が人によってバラバラなのです。そのためすみ分けが生まれます。品質が高いことに追加で何円払ってもよいと考えるか、という額の分布の分散が大きくなるほど、価格弾力性が小さくなり価格競争が緩和されます。つまり品質の差が大きくなるほど、価格競争は緩和されます。
中間品質が参入を抑止する
Noh & Moschini, (2006)による理論研究では、既存企業の品質設定によって、潜在的参入企業がどのような対応をしてくるかを分析しています。
①高品質を設定した場合
参入企業は低品質で参入することで期待利得が大きくなり、参入してきます。
②低品質を設定した場合
参入企業は高品質で参入することで期待利得が大きくなり、参入してきます。
③中間品質を設定した場合
参入企業は高品質を設定しても低品質を設定しても、既存企業との競争が激しくなってしまいます。参入による利得が小さくなるので、参入してこない場合があります。
この「中間品質で参入を防ぐ」戦略は、価格ではなく品質を武器にした参入阻止であり、非常に効果的な方法として注目されています。
まとめ
参入を防ぐ方法には、品質をうまく調整するというものがあります。直感的には、品質を上げるほど参入を阻止できそうに思えますが、垂直差別化の観点からはそれをすると低品質での参入の余地を大きくすることになります。中間品質を設定することで、理論的には潜在的参入企業が仮に参入したときの利得を小さくし、参入を抑止できる場合があるのです。
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