株式会社エコノミクス&ストラテジー

品質の非開示と参入阻止

参考論文

Oh, F. D., & Park, J. (2019). Potential competition and quality disclosure. Journal of Economics & Management Strategy, 28(4), 614–630.


はじめに

製造する商品やサービスの品質を公開するべきか、というのは経営における重要な論点です。この記事では、自社商品の品質の高さをあえて公表しないことで、潜在的な参入を阻止することができるという理論を紹介します。Oh, F. D., & Park, J. (2019)という論文が詳しく取り上げています。垂直差別化の理論を用います。


垂直差別化

品質に差がない場合、消費者は価格だけを基準にして購入を決定します。このような状況では、企業は「少しでも安く売らないと顧客を獲得できない」と考え、価格をどんどん下げていきます。こうして始まるのが、いわゆる「ベルトラン競争」と呼ばれる現象です。最終的には、商品が原価ギリギリ、場合によっては赤字価格で売られることになり、企業にとっては非常に過酷な環境となります。

競争する商品間で品質に差がある場合、つまり垂直差別化されている場合を考えます。たとえば、同じ自動車でも、あるメーカーは高性能で安全機能が充実した高級モデルを提供し、別のメーカーは基本性能を備えた廉価モデルを販売する場合を考えます。 重要なのは、消費者の中にも「高品質を求める人」と「安さを重視する人」がいるということです。品質が高いことに追加で何円払ってもよいと考えるか、という支払意思額が人によってバラバラなのです。そのためすみ分けが生まれます。品質が高いことに追加で何円払ってもよいと考えるか、という額の分布の分散が大きくなるほど、価格弾力性が小さくなり価格競争が緩和されます。つまり品質の差が大きくなるほど、価格競争は緩和されます。


品質を隠すことが参入を抑止する

以上の垂直差別化の原理により、既存の企業は自社商品サービスの品質を隠した方が参入を抑止できます。品質が隠されてる方が、参入の期待利益が低くなるからです。

既存企業が高品質であると分かっている場合、潜在的参入企業は低品質商品で参入することで、緩やかな価格競争しか起こさずに高い利益を得ることができます。

既存企業が低品質であると分かっている場合、潜在的参入企業は高品質商品で参入することで、緩やかな価格競争しか起こさずに高い利益を得ることができます。

一方で、既存企業の品質が分からないとき、潜在的参入企業は参入しずらくなります。例えば、もし高品質で参入し、既存企業も高品質だった場合、価格競争が激しくなってしまいます。参入先の既存企業の品質が分からないと、参入したときの期待収益が小さくなるのです。したがって新規参入を抑止するには、潜在参入者に自身の品質を隠すことが効果的です。

この記事は役に立ちましたか?

もし参考になりましたら、下記のボタンで教えてください。

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。