株式会社エコノミクス&ストラテジー

チェーンストアパラドックスから読み解く参入抑止戦略

はじめに

企業経営において、「いかにして新規参入を抑止するか」という課題は非常に重要です。特に寡占市場や高収益業界では、1社の新規参入が市場構造を大きく変えることさえあります。

そんな中で注目されるのが、経済学とゲーム理論の古典である「チェーンストアパラドックス(Chain-Store Paradox)」です。本稿では、「非合理に見える強硬な競争姿勢が、長期的に合理的な参入抑止戦略である」ことを解説していきます。


チェーンストアパラドックスとは?

このパラドックスは、経済学者のR. H. セルテン(Reinhard Selten)が提示した戦略状況です。以下がその基本的な設定です。

  • 巨大なチェーンストア(例えば全国展開の小売企業)がある。
  • このチェーンストアは複数の地域市場に出店しており、各地域に新たな小規模業者が参入しようとしている。
  • 各新規参入者は、他の地域のチェーンストアの行動を観察できる。
  • チェーンストアは、各地域での競争に対して「強硬に価格競争で潰す」か「受け入れる」かを選べる。

結論は非直感的

ゲーム理論的な完全均衡(サブゲーム完全均衡)を用いると、「チェーンストアは参入者を受け入れるのが合理的」という結果になります。理由は単純で、「強硬に潰す」ことはコストがかかり、短期的には損をするからです。

しかし、実際の市場では、巨大企業が明らかに赤字覚悟の強硬手段で新規参入を潰すケースがあります。この行動は一見非合理ですが、実はそこに戦略的意図が潜んでいるのです。


チェーンストアの強硬姿勢は「見せしめ」である

実際には、先に参入してきた小規模企業を徹底的に叩くことで、他地域の潜在的参入者に「参入すれば潰される」というシグナルを送っているのです。

この戦略はレピュテーション(評判)戦略とも呼ばれます。長期的に見れば、ある地域で損をしても、他地域への参入を抑止できればトータルでは利益になります。


ゲーム理論の限界と現実的戦略の融合

このような戦略は、標準的なゲーム理論モデル(完全合理性、完全情報)では説明が困難です。なぜなら、完全合理的な相手は「この企業は損を出してまで潰してこない」と見抜いて参入するからです。

しかし、現実の市場では情報の非対称性、合理性の限定、評判効果などが存在し、それらを加味するとこの戦略は合理的なものとして成立します。


まとめ

チェーンストアパラドックスから見出せる戦略的示唆というのは、「非合理な行動が戦略的には合理であることもある」ということです。

本当に賢い企業は、目先の利益ではなく、長期的な競争環境の構築を見据えて動いているのです。

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