株式会社エコノミクス&ストラテジー

垂直的資本関係が新規参入を招く

参考論文

Yoffie, D. B., & Kwak, M. (2001). Judo strategy: Turning your competitors’ strength to your advantage. Harvard Business School Press.


はじめに

この記事では、垂直的資本関係、特に川下企業の株を保有することが、新規参入を招いてしまう可能性があるということを説明します。垂直的資本関係を結ぶと、「完成品部門」と「部品部門」の利益にトレードオフの関係が生まれてしまい、新規参入者がそのズレをついてくる可能性が高くなるのです。


ケース

ある商材における部品について、A社が独占的に生産している状況を考えます。この商材の最終財市場では、B社とC社の2社が競っていて、A社はこの2社に部品を供給しているとします。今、A社がB社の株式を一部保有することを検討しているとしましょう。

保有していないとき、部品市場への参入に対してはA社は厳しく値下げ攻撃することになります。そのため、参入は抑止されるはずです。

一方でA社がB社株を一部保有した場合はどうでしょうか。A社はC社に対しても部品販売を続けるわけですが、もし部品市場に新規参入企業が現れた時、C社に対しての販売でA社は積極的に新規参入者を価格攻撃できなくなります。というのも、C社への部品販売で価格競争を起こすとC社がコスト優位になり、B社の業績を下げてしまい、それがA社の資本収益に悪影響を与えるからです。つまりA社は、C社への販売での価格競争に追随することができないのです。それを先読みして、潜在的参入企業は部品市場への参入をしやすくなってしまいます。参入企業は、C社への販売について価格競争を激しくせずにシェアを取れると予想するからです。

つまり、垂直資本関係が企業のインセンティブ構造を変化させ、新規参入を促してしまう可能性があるのです。A社としては、そのことを先読みして川下市場と資本関係にならないほうが良い場合があります。


まとめ

垂直資本関係には、このような参入促進効果があります。「完成品部門」と「部品部門」の利益にトレードオフの関係を生んでしまううことに起因します。川下企業の株保有を検討する際には、以上のような新規参入のリスクを考量する必要があるでしょう。

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