参考論文
Gelman, J. R., & Salop, S. C. (1983). Judo Economics: Capacity Limitation and Coupon Competition. The Bell Journal of Economics, 14(2), 315–325.
Cracau, D. (2013). Judo Economics in Markets with Asymmetric Firms. Economics Letters, 119(1), 35–37.
はじめに
新しく市場に入るとき(=新規参入)には、すでにその市場で活動している企業(=既存企業)からの激しい価格競争を受けるリスクがあります。特に、既存企業が「新しい会社が入ってきたら自分たちの利益が減る」と感じた場合、すぐに値下げなどの対抗策を取ってくることがあります。
このような攻撃を避けるためには、「敵に危険だと思われないようにすること」が重要です。そこで使えるのが、「あえて知名度を上げないで参入する」という戦略です。Gelman, J. R., & Salop, S. C. (1983)は、小さな新規参入者が自らの弱点を逆手に取り、巨大な既存企業の行動を変えさせる手法を理論的に示しています。
Judo strategy
知名度を高めずに参入する場合と、知名度を高めて参入する場合を比較します。
ある商材の顧客数を全部で100とし、参入される前には既存企業は独占的に供給しているとします。
新規企業が、知名度を高めて100人全員に存在を知られた上で参入したらどうなるでしょうか。既存の大きな企業にとってその参入は大きな脅威となります。もし新規企業が既存企業よりも低い値段を設定したら、理論的には需要をすべて奪われてしまうことになるため、既存会社は徹底抗戦し、価格競争を激しくするはずです。一般的には既存企業がコスト優位性を持っているため、価格競争の結果参入者の利益は小さくなってしまいます。
一方で知名度を高めずに(100人のうちの20人にしか知られないようにして)参入する時、既存会社にとっての参入の脅威が小さくなります。というのも、その企業の参入を許しても奪われる需要が20だけで、既存企業は80の需要を確実に取得することができるからです。80人は新規参入のことを知らないので、引き続き既存企業の固定顧客になるのです。もしその参入を防ぐために価格値下げをしてしまうと、既存企業は80の需要分の潜在的な反独占的利益を失ってしまうことになります。この機会費用が留保価値として機能し、既存企業は値下げをするインセンティブを弱くします。結果として、もし知名度を高めなかった場合、参入企業は値下げ攻撃に巻き込まれることなく、高い価格をつけて20の需要を得ることができるのです。
まとめ
この記事で紹介した戦略は、既存企業の大きさという強みを逆手にとって、弱みに変える戦略として捉えることができます。大きい企業は、大きい分柔軟な行動を取ることができず、それを利用した戦略と言えます。
新規参入を考えているが既存企業からの値下げ攻撃が予想される場合には、あえて知名度を高めずに参入するという戦略を取るのが良いかもしれません。
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