参考論文
Bonanno, G., & Vickers, J. (1988). Vertical separation. Journal of Industrial Economics, 36(3), 257–265.
Rey, P., & Stiglitz, J. E. (1995). The role of exclusive territories in producers’ competition. The RAND Journal of Economics, 26(3), 431–451.
はじめに
現代のビジネスにおいて「垂直統合(Vertical Integration)」は効率化の象徴として語られがちです。製造から小売までを一手に担うことで、コストを削減し、利幅を確保する——。しかし、1988年にGiacomo BonannoとJohn Vickersが発表した論文『Vertical Separation』は、こうした常識に一石を投じました。彼らは、メーカーがあえて独立した小売業者に販売を任せる「垂直分離(Vertical Separation)」によって、価格競争を緩和させ、利益を大きくすることができるということを示しました。
垂直分離
この論文の舞台は、2社が競争する寡占市場です。この2つのメーカーはそれぞれ水平差別化して競っているとします。両社は、自社製品を自ら売る「垂直統合」つまり直販か、他の小売業者に売らせる「垂直分離」のどちらかを選ぶことができます。この垂直分離では、各メーカーは小売業者を1社だけ選び、自社商品を独占的に販売させるとします。
垂直統合(直販)の場合は、両メーカーが自社商品の最終販売価格を自身で決定すると仮定します。
垂直分離の場合は、両メーカーはそれぞれの小売店に売る卸売り価格を決定し、小売店が独自に最終販売価格を決定すると仮定します。メーカーには、最終販売価格の決定権はなく、小売店が設定するだろう最終販売価格を先読みして、自身の利益が最大になるように卸売り価格を決定すると仮定します。
この時、両メーカーが直販を選択して競争する時よりも、両メーカーが垂直分離を選択したときの方が、価格競争を和らぎ、全体の利益が大きくなるのです。つまり両メーカとしては、いくらかフランチャイズ料金を請求できれば、直販で売るよりも小売店を挟んだほうが利益が大きくなるのです。
価格競争緩和のメカニズム
なぜ、小売店を挟んだほうが価格競争が緩和されるかということについて説明します。
端的に言うと、小売店を挟むことで、メーカーの卸売り価格を引き下げるインセンティブが小さくなるからです。メーカーが卸売価格を引き下げることは、小売店のつける最終販売価格を引き下げさせ、それは競合から顧客を奪うことにつながりますが、小売店を挟むことで、卸売価格引き下げによる顧客略奪効果が小さくなるのです。結果として、各メーカーは卸売価格を高く設定するようになり、最終販売価格も高く維持されます。 そして、メーカーは小売店からフランチャイズ代を請求することで、直販で競争する時よりも高い利益を得ることができるのです。
垂直分離とコミットメント
小売店を挟んで販売する戦略は、自身の手足を縛るコミットメントと似ています。小売店を挟むことで、メーカーが自身で自由に最終販売価格を決定できないようにし、値下げが行われない構造にするのです。自分の行動を制限するということに、競争している両者がコミットすることで、協力関係が維持されやすくなるのです。
自身の行動を制限するという意味では、最低価格保証などとメカニズムは似ているかもしれません。
まとめ
メーカーが競争している時、直販するのではなく、それぞれ独占的小売店を挟んで競争することで、価格競争が和らぎ市場全体の利益を大きくすることができるかもしれません。重要なポイントは、メーカーが自分で最終販売価格を決定できないようにコミットするメカニズムを作ることです。これにより、価格競争が緩やかな市場環境を作ることができるのです。
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