参考論文
Dana, J. D., Jr., & Fong, Y.-F. (2011). Long-Lived Consumers, Intertemporal Bundling and Collusion. The Journal of Industrial Economics, 59(4), 609–629.
はじめに
私たちは日常生活の中で、スマートフォンの2年契約や、インターネットサービスの年間プランなど、さまざまな「長期契約」に囲まれて暮らしています。これらの仕組みは、単に便利でコストパフォーマンスが良い選択肢のように見えるかもしれません。
しかし実は、企業はそれぞれこれらの長期契約で競争することで、短期契約で競争する場合よりも、理論的には価格競争を抑制しやすくすることができるのです。
Dana, J. D., Jr., & Fong, Y.-F. (2011).という論文は、各社がそれぞれ長期契約を顧客に提示することで、過度な価格競争を抑止できるということを示しました。長期契約を結ぶことで、各期において得られる新規顧客の割合が減るため、価格維持からの逸脱により得られる利得が小さくなるからです。
長期契約
長期契約とは、複数の期間にわたる商品やサービスをまとめて契約させるビジネス慣行のことです。新聞の定期購読や、携帯電話の年間契約、DSL回線の長期契約などがその典型例です。
この論文では、こうした契約が企業の価格競争にどのような影響を及ぼすかを、有限寿命の消費者が重複して存在する市場を想定した経済モデルで検討しています。
なぜ長期契約が価格競争を抑止するか
2つの競争する会社が、ある地域のジム市場で競っていて、シェアを半分ずつ分け合っているとします。両社の提供するサービスは差別化されていないとします。両社が一か月契約で競争している時と、二か月で競争している時を比較します。両社は、それぞれ1か月ごとに価格を改定できるとします。2か月契約では、契約の最初に2か月分の料金を払うとします。また、当該ジム市場の消費者人口は一定とします。
まずは、両社が一か月契約で競争しているとします。この時、ジム市場のすべての消費者が毎月契約を結ぶということになります。両社が暗黙の了解で価格を維持している状態から、片方が価格維持から逸脱した場合の逸脱利益は、「全消費者分の1か月分の料金」ということになります。全消費者が毎月契約を結ぶため、そのすべてを取り込めるのです。次の月から、価格競争が始まり利潤は0になります。
次に、両社が二か月契約で競争しているとします。この時、ジム市場の消費者のうち二分の一が、各月で契約を結ぶことになります。(シェアは均等に分け合っているので、暗黙の共謀時には各社はそれぞれ毎月全体の四分の一の顧客と契約を結ぶことになります)この時、両社が暗黙の了解で価格を維持している状態から、片方が少し値下げして価格維持から逸脱した場合に獲得できるのは、全体の二分の一の顧客ということになります。というのも、残りの二分の一の顧客は前の期の契約ですでに囲い込まれているからです。ここで、獲得できる全体の二分の一の顧客が、二か月契約を結んでくれるかというと、結んでくれません。というのも、合理的な消費者は、次の期に価格競争が起きて価格が大幅に下がることを予想するからです。したがって、逸脱によって得られる利益は、「全体の二分の一の顧客分の2か月分の料金」よりも少なくなります。
1か月契約で競争している時に、暗黙の共謀からの逸脱によって得られる利益は、「全消費者分の1か月分の料金」であり、二か月契約で競争している時の逸脱利益はそれより小さくなります。逸脱利益が小さいと、価格競争は起きにくくなります。したがって、二か月契約で競争している場合には価格競争が抑止されやすくなるのです。
まとめ
Dana, J. D., Jr., & Fong, Y.-F. (2011)は、長期契約が企業間の競争環境と価格競争に与える影響を述べた論文です。長期契約を結んで企業が競争する方が、価格競争を抑止しやすくなることを紹介しました。価格競争を抑止したい場合、長期契約で競争するような競争環境を作ることが効果的かもしれません。
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