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最恵国待遇条項は価格競争を緩和する

参考論文

はじめに

企業間取引やプラットフォームビジネスにおいて頻繁に見られる「最恵国待遇条項(Most Favored Nation Clause, 以下MFN条項)」は、一見すると公正さを保障する仕組みに見えます。ある取引先に対して他のどの相手よりも有利な条件を約束するというこの条項は、一部の契約において「公平性」や「安心感」を提供します。買い手としては、自身の競合と比べて仕入れコストで不利になることがないという安心感によって、この保証を好むでしょう。中には、将来的にも値下げしたら、その差額を返金するという取り決めがなされることがあります。しかし経済学・産業組織論の視点から見ると、MFN条項にはもう一つの側面があります。それは、価格競争を緩和し、結果的に市場全体の価格を高止まりさせる効果です。

MFN条項の基本的な仕組み

MFN条項とは、「もしも取引相手が他の顧客により有利な条件を提供した場合、自分にも同様の条件を自動的に適用せよ」という契約条件です。例えば、あるホテル予約サイトがMFN条項を持っていた場合、そのホテルが他のサイトでより安い価格を提示した際には、MFN条項のあるサイトにもその価格を適用しなければならなくなります。過去遡及型MFN条項の場合は、もし将来的に値下げしたときには、過去に取引した顧客に対しても返金することを保証するというものです。

価格競争を抑制するメカニズム

MFN条項が価格競争を緩和する理由は以下のとおりです。

企業が一部の顧客にだけ値下げを行うことで市場シェアを拡大しようとする動機が、MFN条項によって失われます。なぜなら、ひとつの顧客に対する値下げが、MFN条項を持つすべての顧客(過去に購買した顧客も含まれる保証もある)に波及してしまい、全体の利益を圧迫するからです。結果として、企業は安易な値下げができないようになります。

つまり、複数の企業がMFN条項を活用している場合、業界全体として価格を維持しやすくなり、いわば「価格の協調」が生まれやすくなります。各企業がMFN条項をそれぞれの顧客と結びそれにコミットすることで、業界全体として値下げが起きないだろうという安心感が生まれ、価格競争が起きにくくなるのです。これは、いわゆる価格カルテルとは異なるものの、実質的に似たような競争抑制効果をもたらします。価格についての柔軟性を無くすように各社がコミットすることで、値下げ競争が起きにくくなるのです。

価格を下げることで顧客を増やし利益を増やせる作用が存在しますが、反対に価格を下げることで損してしまう作用も作ることで、各社が共謀から逸脱するインセンティブを小さくし、過度な価格競争を抑止することができるのです。

独占禁止法との関係

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