株式会社エコノミクス&ストラテジー

アフターマーケットと価格共謀

参考論文

Fong, Y., Li, J., & Liu, K. (2016). When does aftermarket monopolization soften foremarket competition? Journal of Economics & Management Strategy, 25(4), 852–879


はじめに

企業は、商品やサービスを販売して収益を得るのみならず、その修理などのアフターマーケットによっても、収益を上げています。この記事では、1人の顧客からの収益を一回の販売で取りきる形をとるよりも、1回の販売収益と販売後の修理収益という複数回にわたって収益を得る形を各社が取ったほうが、価格競争を抑止できるという理論を紹介します。売って終わりにするよりも、売った後に修理等のアフターマーケットで分割して利益を得る仕組みを作ることで、価格競争を抑止することができるということです。収益源を複数回に分けて時間差を設けることによって、共謀からの逸脱によって得られる収益が相対的に小さくなり、共謀から逸脱して値下げするインセンティブを小さくすることができるからです。


モデル

競合する二社が、同質の商品を製造販売しているとします。消費者は、その商品を1年間の間必要とする、と仮定します。この一年間というのを、1世代と表現することにします。単純化のために、もし一方が価格共謀からの逸脱(値下げ)が発生した場合は、将来的には仕返しとして本体価格を限界費用まで下げる罰則が行われるとします。

以下の二つのケースを比較します。

①両社が、耐久年数1年の商品を販売するケース

②両社が、耐久年数が半年で、修理したら追加の半年使うことができる商品を販売するケース

②では、収益源を複数回に分けて時間差を設けているということができます。また、②の仮定として修理は、それぞれ製造した会社しか行うことができないとします。

まず①を考えます。共謀からの逸脱した値下げした企業は、その期の顧客をすべて奪うことができ、その期の顧客数分の1世代分のライフサイクル利益をまるごと獲得できます。次の期以降は、競合他社がしっぺ返し戦略をとるので、利益が0になります。

②を考えます。顧客にとっての1世代分の利益を、2回に分けて確保するという収益モデルであると言えます。つまり、本体売上だけでなく、その後のアフターマーケット売上も含めて1世代分の利益となります。ある期の販売価格を値下げして共謀から逸脱すると、その期に本体商品を需要した顧客をすべて奪うことができます。ですが、この際にはそれぞれの顧客から、0.5世代分のライフサイクル利益しか獲得することができません。その期に修理を需要している層は取り込むことができないからです。その後、競合会社のしっぺ返しにより本体商品では価格競争が起き、修理価格もその影響を受けて下げざるを得なくなります。というのも、新品の本体を買いなおすことと修理に出すことは、顧客にとって代替関係にあるからです。ここが非常に重要ですが、2回に分けたキャッシュポイントのうち、逸脱により1回目の本体売上は総どりすることができても、2回目の修理利益は価格競争に巻き込まれて吹き飛んでしまうことになります。結果として、逸脱によって、0.5世代分(半年分)のライフサイクル利益しか獲得できなくなるのです。

①と②を比較すると、①の場合は逸脱することにより、一世代分(各顧客の一年分)のライフサイクル利益をまるごと獲得できる一方で、②の場合は0.5世代分(半年分)のライフサイクル利益の価値しか獲得できません。つまり、②の場合の方が、逸脱による利益が小さくなるのです。一人の顧客からの収益源を複数回に分け、時間差を作ることにより、逸脱による利益を相対的に小さくすることができるのです。収益フローを2回に分け、この2つに時間差を儲けます。そして前半部分で裏切ると、後半部分では仕返しによる価格競争で利益を得れないようにすることで、裏切りによる利益を小さくすることができるのです。裏切るインセンティブが弱まることで、高価格が維持されやすくなります。

一回の販売で売り切ってしまうよりも、本体販売と修理というように収益源を分けてしまうことによって、暗黙の価格共謀が維持されやすく、高い価格も維持されやすくなるのです。


まとめ

一回で売り切ってしまうのではなく、本体商品を販売後に修理などのアフターマーケットでも儲ける構図を作る、ということを各社が行うことで、価格競争を防止しやすくなります。重要なのは、本体商品市場とアフターマーケットに代替関係があることです。収益フローを2回に分け、本体商品で価格競争が起きたら、アフターマーケットにも飛び火して価格競争が起きてしまうようにすることで、前半部分で裏切ると、後半部分では仕返しによる価格競争で利益を得れないようにします。そうすることで、値下げ裏切りによる利益が小さくなり、価格競争が発生しにくくなるのです。

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