株式会社エコノミクス&ストラテジー

最低価格宣言は価格競争を緩和する

はじめに

他の会社がどのような価格をつけようと、最安値で提供することを宣言する最低価格保証(Lowest Price Guarantee)。地域最安値宣言などという形で、カラオケ店のチラシで見たことがある人も多いかもしれません。一見すると消費者に有利な施策のように思えますが、実はこの宣言が、市場の価格競争を緩和し、企業同士の価格引き下げ圧力を抑える効果を持つ可能性があります。なぜ最低価格宣言が競争を和らげるのか。そのロジックと背景を経済学の視点から解説します。


なぜ最低価格宣言が価格競争を弱めるのか?

最低価格保証は、次のような戦略的メッセージとして機能します。それは、ライバル企業に対する「価格戦争の牽制」です。

最低価格保証を掲げる企業は、ライバルが値下げを行ったとしても、それに即座に追随することを宣言しています。これによりライバル企業は、「値下げをしても、すぐに反撃されるため自分の利益がほとんど増えない」と予測し、積極的な値下げを控えるようになります。

あるいは以下のような説明もできます。最低価格宣言を出しておくことで、もし競合他社が最安値を出したとしても、最低価格保証を掲げる企業がすぐに低い価格を提示するようになると消費者は予想し、競合他社での購入を延期するようになるでしょう。この作用により、競合他社は最安値を一時的に提示しても客をあまり奪えないことになるため、値下げインセンティブが小さくなるのです。

価格競争の激化を防ぐには、もし価格を下げたら確実に反撃される、と各プレイヤーが予想する状況を作り出すことが重要で、そのためのスキームとして最低価格宣言が機能するのです。


理論的背景:ゲーム理論と協調の促進

この戦略の背後にあるのは、ゲーム理論的な視点です。競争企業同士が繰り返しゲームを行う場合、相互牽制や協調が成り立つことが知られています。最低価格保証は、企業間の暗黙の協調(tacit collusion)を支えるツールとして機能します。

「値下げの利益が限定的である」「値下げに対して必ず対抗される」

という期待が形成されることで、価格競争が自制される均衡が成立するのです。

独占禁止法との関係

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