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多市場接触と価格競争

参考論文

はじめに

現代のグローバル市場では、企業同士が単一の市場ではなく、複数の市場で競合するケースが増えています。たとえば、A社とB社が国内の家電市場だけでなく、海外の通信機器市場でも争っているというような状況です。これを経済学や経営戦略の文脈では「多市場接触(Multimarket Contact)」と呼びます。

この多市場接触は、企業間の価格競争にどのような影響を及ぼすのでしょうか?直感的には、ライバルと何度も顔を合わせるほど、競争が激化しそうなものです。しかし、実際には逆の現象が多くの実証研究で観察されています。すなわち、“競争の抑制”です。

本記事では、多市場接触が価格競争に与える影響、その背景となる理論、そして現実のビジネスへの示唆について解説します。


多市場接触とは何か?

多市場接触とは、同じ企業が複数の製品市場や地域市場において、同じライバルと繰り返し競合している状態を指します。これは「Repeated Competition(繰り返し競争)」の一種と捉えることもできます。

たとえば、航空業界において、ユナイテッド航空とアメリカン航空がニューヨーク—ロサンゼルス路線と、シカゴ—ダラス路線の両方で競っている場合、彼らは多市場接触状態にあると言えます。


多市場接触は価格競争を緩和する

驚くべきことに、複数の市場で同じライバルと競争していると、企業は互いに攻撃的な価格競争を避ける傾向があります。これは「相互確証的抑制(Mutual Forbearance)」と呼ばれる現象で、多市場接触の最も有名な効果の一つです。

この理論的背景にはゲーム理論が存在します。簡単に言えば、繰り返しゲームにおいてプレイヤー同士が将来の報復を恐れ、現在の攻撃を控えるという考え方です。たとえば、ある市場で一方が価格を引き下げてシェアを奪おうとすれば、それとは関係のない他の市場で相手から報復される可能性があります。競争する場所の接点を増やすで、仕返しの脅威を増やして、価格競争が起きにくくすることができるのです。

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