参考論文
Sorensen, T. L. (2007). Credible collusion in multimarket oligopoly. Managerial and Decision Economics, 28(2), 115–128
はじめに
競争する企業が、多市場で接触して競争することによって、価格競争の発生を抑止することができるという理論があります。もしある市場で裏切って価格を下げた時、その市場とは直接関係のない市場で仕返しを受けてしまう恐れがあり、その恐怖が値下げ裏切りを抑止するという論理です。つまり、競合との接触が多いほど、1つの市場で裏切りが発生したときに全面競争に陥ってしまうという報復の脅威が増大し、裏切り値下げが起きにくくなるのです。以下の記事で具体的に説明しています。
この記事では、多市場接触の中でも、各市場において企業間に非対称性がある場合に、より価格競争抑止作用が大きくなるということを説明します。非対称性とは例えば、企業AとBが、ともに市場XとYで競争している時、「市場Xでは企業Aの方が強く、市場Yでは企業Bの方が強いというような状況」は、「市場XとYにおいて両企業の強さが同じである対照的な状況」よりも、価格競争がより抑止されやすいということです。
市場ごとの強さの非対称性
簡単に言うと、自分の収益源を人質としてライバルに晒すということを相互に行うことで、協力が維持されやすくなるということです。企業Aは市場Xで強く、市場Xを収益源にしていて、反対に企業Bは市場Yで強く、市場Yを収益源にしているとします。この時、もし企業Aが市場Yにおいて共謀から逸脱するとします。この時、直接は関係のない市場Xにおいて企業Bは仕返しをする(価格競争を起こす)ことができます。企業Aは市場Xを収益源にしているので、そこで価格競争が起きてしまうと被害が多いくなります。企業Aとしては、自身の収益源である市場Xでの価格競争を恐れて、市場Yでの暗黙の共謀からの逸脱を避けるようになるのです。 反対もしかりで、企業Bも暗黙の共謀を維持するようになるでしょう。このように、各市場において企業間に非対称性がある多市場接触では、より価格競争が起きにくくなります。自分の収益源(=弱み)を相手に晒すことによって、裏切りが起きにくくなるのです。
言い換えると、自身の収益源を人質に出すということを相互に行うことによって、価格競争の発生を抑止することができます。もし自分が相手を裏切ってしまうと、自身の収益源が相手によって攻撃されて大きな被害を受けてしまうため、裏切りが抑止されるのです。自身の弱みを競合にさらけ出すことで、過度な価格競争を抑止することができるのです。参考にした論文である、Sorensen, T. L. (2007)では、このような各市場における各企業の非対称性が、人質を相互に出し合う構図を作り出し、価格競争の抑止を成立させやすくすることを指摘しています。
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