株式会社エコノミクス&ストラテジー

株式持合と価格競争

参考論文

Gilo, D., Moshe, Y., & Spiegel, Y. (2006). Partial Cross Ownership and Tacit Collusion. RAND Journal of Economics, 37(1), 81–99.


はじめに

市場における激しい価格競争は、企業の利益率を圧迫し、業界全体の収益性を損なうリスクがあります。その中で注目されているのが、「競合他社との株式保有(クロスシェアホールディング)」がもたらす戦略的な効果です。これは単なる資本提携ではなく、競争行動そのものに影響を及ぼす、見過ごされがちな経済的インセンティブの変化をもたらします。

株式保有によるインセンティブ構造の変化

通常、企業は自社の利益最大化を第一に考えます。しかし、もし自社がライバル企業の株式を保有していれば、そのライバルの利益も「自社の利益」に含まれることになります。
A社とB社が存在し、スマホ事業で競争しているとします。両社は株式持ち合いをしているとします。A社が値下げをする場合、確かにA社はB社から顧客を奪い販売収益を増やすことができますが、B社の収益が減り、それがA社の資本利益に間接的に悪影響を及ぼすという作用も発生するようになります。この作用により、株式保合をしていない時と比べて、価格引き下げのインセンティブが弱まり、価格競争が緩和されるのです。

これは、「利害の共有」が価格政策の調整圧力として働くことを示唆しています。企業が直接的に談合をせずとも、間接的に価格競争が緩和されるのです。

戦略的示唆

競合との株式保有は、表面的には協調的な関係を築く手段の一つに見えますが、これは単なる友好関係を超えた「インセンティブ設計」の戦略でもあります。価格競争が激しい市場では、こうした資本的つながりによって、敵対的な価格行動を抑制し、長期的な利益の最大化を目指すことが可能です。

敵の懐に入り、「もし敵が自分に攻撃してきたら敵自身も自動的にダメージを食らってしまう」というような構図を作り出し、競合の攻撃を防止することができるのです。

間接的持合い

競合同士で、株式持合いをすることは、独占禁止法上規制される場合があります。これを回避するには、間接的な株式相互持合いが有効かもしれません。

事例1  企業Aと企業Bが、ある最終財で競争しているとします。企業AはサプライヤーXから仕入れ、企業BはサプライヤーYから仕入れているとします。この時、企業AがサプライヤーYの株を購入し、企業BがサプライヤーXの株を購入するということをすれば、最終財の企業AとBの価格競争を抑止できる作用があります。企業Aが価格を下げると、最終財の収益を増やすことができますが、企業Bの売上が減ることでサプライヤーYの売上も減ることによって、間接的に企業Aの資本収益が減る作用が発生するからです。

事例2  以下の論文「Gilo, D., Moshe, Y., & Spiegel, Y. (2006). Partial Cross Ownership and Tacit Collusion. RAND Journal of Economics, 37(1), 81–99.」で扱われているのが、以下のような株式持合いです。競争する企業A,Bが、それぞれ第三企業Cと株式持ち合いをすることで、AとBの価格競争を抑止できるというものです。

つまり、企業Aが値下げをすることで、企業Bの売上低下で収益が下がりそれが企業Cの資本収益を悪化させます。企業Aは企業Cの株式を持っているため、それにより間接的に企業Aの資本収益も低く作用というのが存在するのです。共通する第三者とそれぞれ株式相互持合いをすることで、価格競争を抑止できる作用があるのです。

独占禁止法

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