株式会社エコノミクス&ストラテジー

競合他社の補完財の販売

参考論文

Brandenburger, A. M., & Nalebuff, B. J. (1996). Co-opetition: A revolutionary mindset that combines competition and cooperation. Doubleday.


はじめに

競争環境を操作して価格競争を緩和することは、企業の収益上非常に重要です。競合が積極的に値下げしてくる場合、自社もそれに追随せざるを得なくなり、利益が圧迫されてしまいます。

競合の値下げには「理由」があります。その理由を理解し、価格競争に巻き込まれずに済む戦略をとることができれば、企業はより健全な価格帯を維持しながら市場での競争優位を築くことができます。

本記事では、「競合の価格競争インセンティブを間接的に抑える」戦略について解説します。具体的には、「販売している商品サービスの補完材を競合他社が販売している場合、その補完財の販売を自社も行うようにすることで、価格競争を緩和できる」というものです。


競合の値下げインセンティブ

たとえば、自社と競合がジム事業で顧客を奪い合っているとしましょう。
競合は、自社でプロテイン製品も製造・販売しており、ジムで獲得した顧客をプロテインの購入へと誘導しているとします。

この場合、競合にとってのジムの顧客獲得は「プロテイン売上にもつながる」ため、多少ジムの利益を削ってでも、ジムの料金を下げて顧客を増やそうとする動機(値下げインセンティブ)が強くなります。自社はこのような競合の値下げにより利益を圧迫することになります。

このように、ある商品の顧客が増えることで、その商品の売上以外にもメリットがある場合、値下げインセンティブが強くなります。もしその商品の補完財を競合他社が売っている場合、価格を下げるインセンティブが強くなってしまうのです。


競合の補完材を販売

このような場合、価格で真っ向から対抗するのではなく、競合の値下げインセンティブを“間接的に弱める”戦略をとることが可能です。それは、競合他社の販売する補完財を自社も販売する、というものです。ここでは、自社のジムで、競合のプロテインを販売することです。

自社のジムで競合のプロテインを扱うことで、競合にとっては「自社ジムで顧客を獲得できなくても、自社製プロテインは売れている」という状態になります。

すると、競合としてはジム料金を値下げしてまで顧客を増やそうとする意欲が小さくなります。競合の値下げインセンティブが弱まることで、価格競争が緩やかになり利益を大きくすることができるのです。


まとめ

この戦略の本質は、「競合が値下げしないほうが得になる状況を作り出すこと」です。
価格で直接対抗するのではなく、競合他社のインセンティブ構造を操作することが、持続的に利益を守るための高度な戦略です。もし競合他社が、競争する商材の売上以外にキャッシュポイントを持っている場合、そこを操作することで値下げ意欲を下げることができます。特に、競合が補完財を販売している場合値下げ意欲が強まってしまうため、その補完財を自社も売るようにすることが効果的です。

重要なのは、競合の利益を減らすことではなく、自社の利益を増やすことです。自社と競合の利益の合計が一定であるというゼロサム的な考え方から抜け出すことが重要です。

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