参考論文
Gu, Y., & Wenzel, T. (2014). Strategic Obfuscation and Consumer Protection Policy. Journal of Industrial Economics, 62(4), 632–660
はじめに
私たちが普段使っている携帯電話の料金プランや、クレジットカードの手数料体系、保険商品の条件——なぜ、こんなに複雑でわかりにくいのでしょうか?
この疑問に対して、戦略的曖昧化(Strategic Obfuscation)という概念を使って解き明かしたのが、Gu & Wenzel(2014)の論文です。本記事ではこの論文をもとに、知名度の高い目立つ企業が「わざと分かりにくくする」戦略を、その経済的ロジックと供に紹介します。競合他社と比較したときの相対的な強みが、知名度である場合の企業の戦略です。
比較されると困る理由
同質な商品で競争する各企業にとって、商品や価格を他社と容易に比較されるということは、価格競争に巻き込まれやすいことを意味します。価格情報が比較されやすい市場では、顧客は最安値を選ぶため、企業は利益を削って価格を下げざるを得ません。
そこで企業は、価格情報について消費者が他社と簡単に比較できないように情報を操作するのです。これが「戦略的曖昧化」と呼ばれる行動です。
具体例としては携帯電話の料金プランや、クレジットカードの手数料体系などを他社と変えて比較しにくくするという方法があります。或いは、価格比較サイトに掲載しないという方法もあります。一つのサイトで一度に比較できないようにするのです。つまり、比較するのにコストがかかるようにするということです。Gu, Y., & Wenzel, T. (2014)は、特に有名な企業にとって、この曖昧にする戦略を取ることが効果的であるとしています。消費者にとって比較が難しい時、比較が容易な時と比べて、有名な企業が選ばれやすいからです。
顕在度の高い企業は「曖昧化するインセンティブ」が強い
Gu & Wenzel(2014)のモデルによれば、目立つ企業(=顕在度の高い企業)は、常に最大限の曖昧化戦略をとることが示されています。
その理由は主に2つです:
①ナイーブな顧客は目立つ企業を選びやすい
各社商品について比較ができないナイーブな消費者は、「名前を知っている」「信頼できそう」といった感覚で選びます。曖昧にして比較を難しくして、ナイーブな消費者の割合を増やせば増やすほど、有名な企業の選ばれる確率が上がるのです。比較を難しくすればするほど、「有名である」という強みが活きやすくなり、顧客を獲得しやすくなるのです。
② 市場が不透明だと価格競争が緩くなり、利益が増える
サーチ理論的にこの点が非常に需要ですが、比較ができにくい場合、消費者は最適な選択ができず、結果として企業は高い価格を維持したまま販売することができます。具体的には、比較を難しくする(比較するコストを大きくする)ことで価格に敏感な顧客の割合を減らせるため、価格弾力性が価格弾力性が小さくなり、各社の値下げインセンティブが弱くなるのです。
このように、有名な企業は、顧客にとって各商品の比較を難しくすることで、顧客数増加と価格競争緩和という二つの利益増大効果を享受できるのです。
まとめ
我々はつい「わかりにくい=不親切」「ユーザー思いでない」と感じてしまいます。しかし、その「わかりにくさ」こそが、知名度というブランド資産を最大化するための戦略的武器であることを、Gu & Wenzelのモデルは示しています。重要なのは、他の商品と自社の商品について比較しにくくすることで、価格弾力性が小さくなり価格競争が緩和される効果があるということです。有名な企業は、その知名度という強みを生かすために、大手価格比較サイト等に掲載しないなどして、価格比較をされないようにするのが良いかもしれません。
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