参考論文
Choi, M., Dai, A. Y., & Kim, K. (2018). Consumer Search and Price Competition. Econometrica, 86(4), 1257–1281.
キーワード;ordered search
はじめに
一般的には、サーチコストが大きいほど価格競争が和らぐとされています。サーチコストとは、商品の情報を取得するためにかかる心理的時間的コストのことです。サーチコストの存在により、すべての商品の存在は顧客に知らないようになり、価格弾力性が下がるからです。そのため、競争する会社同士でなるべくサーチコストを下げないようにすることで、価格競争を和らげることができるとされています。ですが、ある条件を満たしている場合、サーチコストが大きいほど価格競争が激しくなります。
サーチコストと価格競争
その条件とは、各商品の価格情報についてのサーチコストが小さく、商品の特性についてのみサーチコストが大きい場合です。つまり、消費者にとって、各商品の価格の情報は簡単に手に入る一方で、商品の特徴や自身の好みへの適合度については、調べるのに手間がかかるという状況です。
以下のような消費者像を仮定します。消費者は、各商品の価格情報を見たうえで、まず一社の商品について検索します。その後必要と感じたら追加でサーチコストを払って他の商品も検索するという検索をすると仮定します。追加的検索をしたところで、自身にとってより良い商品が見つかるとは必ずしも限りません。
この時、商品の特性を知るのにかかるサーチコストが大きいほど、消費者は2回目以降の検索をせずに最初に調べた商品を購入するようになるはずです。サーチコストが大きい場合、消費者にとって、追加的な検索を行ったところで、その大きなサーチコスト分を上回るほどに自身の好みにあっている商品を新たに見つけることは難しいと予想するからです。そのため企業にとって、顧客を獲得するには最初に検索されることが重要になり、商品特性が顧客に何も知られていない中で最初の検索先に選ばれるためには、価格が低いことが必要となります。どのような特徴の商品か何も知られていない状況で、最初に検索されるには価格の低さを訴求するしかないからです。消費者は価格の一番安い商品を最初に検索し、追加的な検索をせずにその商品をすぐに買ってしまうようになります。このような論理により価格弾力性が高くなり、価格競争が激しくなってしまいます。差別化をせっかくしていても、以上の論理により、「差別化による価格競争抑止の効果」がなくなってしまう可能性があるのです。
反対に、商品の特性を知るのにかかるサーチコストが低い場合を考えます。この時、消費者は容易に二回目以降の検索ができ、商品特性を比較したうえで購入するようになります。したがって、最初の検索先に選ばれる必要性があまりなくなり、値下げするインセンティブが小さくなるのです。
サーチコストとインターネット
価格情報についてのサーチコストが低く、商品特性情報についてのサーチコストは低くないという、この記事で取り上げている取り上げている状況は、現在のインターネット社会を反映しています。さまざまな商品の価格はネットですぐに簡単に調べられるようになりましたが、商品特性を調べるのは依然として大変な場合があります。例えば、実際に試してみないとわからない化粧品などの商材が当てはまります。この時、価格競争が激しくなってしまう可能性があります。特性について最初に検索される企業に選ばれる必要性が大きくなり、価格を下げるしかなくなるからです。
ケース
価格はすぐにインターネットで調べられるが、商品特性は店頭に行かないとわからないような商材の例として、テニスラケットがあります。テニスラケットの生産販売で、A社とB社が競争していて、水平差別化されているとします。この時、①各社がそれぞれ独自の小売店(相互に離れている)でしか売っていない場合②1つの店舗に両方売られている場合 を考えてみます。
①の場合、消費者は最初にA社の小売店に行ってA社ラケットの特性を把握したとします。この時、よっぽどA社ラケットを気に入らなかった場合を除いて、B社の店頭に行くことなくそのままA社で買う人が多いでしょう。わざわざ離れているB社の店舗まで行くというサーチコストは負担が大きく、その大きなサーチコスト分を上回るほどにB社ラケットが好みに合っているとは限らないからです。つまり、サーチコストが大きい時、両社にとって売上を増やすには、消費者に最初に検索される(=最初に来店される)ことが重要になります。消費者が商品特性を事前に知らない以上、最初に来店されるには、競合よりも価格が低いこと、あるいは割引があることが重要になります。というのも、消費者の多くは、価格が安かったり割引があることが分かっている方を最初に訪れる傾向にあるからです。したがって両社は価格割引競争をするようになり、収益が低下してしまいます。せっかく差別化しているのに、その差別化の意味がなくなってしまうのです。最初に検索される(来店される)ことが重要なゲームでは、価格競争が激しくなるのです。
②の場合を考えます。同一の店で売られている時、A社のラケットの特性を把握した後、すぐにB社のラケットの特性も把握できます。つまり、追加的な検索のサーチコストが小さいということです。この時両社にとって、最初に検索される必要はなくなります。したがって、①のような価格競争は発生しません。
まとめると、競争している会社同士で、消費者が商品を簡単に比較できるようにすることで、価格競争を緩和できる可能性がある、ということが言えます
まとめ
一般的には、価格競争を抑止するために、サーチコストを下げないことが合理的とされています。ただ、価格情報についてのサーチコストが低い場合には、競合他社と協力して簡単に商品比較をできるようにする(商品特性についてのサーチコストを小さくする)ことが、理論的には価格競争の緩和に繋がることになります。例えば、競合他社の商品と同じ店舗で売るなどの手法があるでしょう。あるいは、各社がそれぞれ商品の特性について広告することで、消費者がコストをかけずに自身の好みと商品とのマッチングを把握できるようにするなどの手法があります。価格情報についての情報を容易に顧客が取得できる場合は、競合と協力し商品比較をしやすくしてサーチコストを下げることで、価格競争を緩和できる傾向があるのです。
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