株式会社エコノミクス&ストラテジー

無料案内所が価格競争を緩和する

参考論文

Anderson, S. P., & Renault, R. (2000). Consumer information and firm pricing: Negative externalities from improved informationInternational Economic Review, 41(3), 721–742.​


はじめに

ある商品サービスについて複数の企業が競争している時に、各商品の特徴を消費者が比較しやすくすることで価格競争を和らげることができるという戦略を紹介します。この際に重要なのは、比較しやすくするのは各商品の特徴だけにして、各商品の価格は比較しにくくしたほうが良いということです。「消費者が自発的な検索をする理由を減らしてしまい、価格情報を把握しないように促す」というのが、この理論の軸となるアイデアです。

この記事の内容は、別の記事に詳しく説明があります。


レストラン街の案内板が価格競争を緩和する

商業施設にあるレストラン街の案内板が、レストランの価格競争を緩和している可能性があります。

(案内板のイメージ図)

重要なのは、案内板の多くは各店の価格情報は載せていない、ということです。
まずは、このような案内板が存在しない場合を考えてみましょう。各消費者は、効用を最大にするために、どのようなレストランがあるのかを知り、自身の好み(その日に何が食べたい気分か)と合うレストランを特定する必要があります。案内板が無い場合、消費者はレストランを一個一個周り、店の前にあるメニューを見ようとするでしょう。「もっといいレストランが別にあるかも」と考えて検索を続けようとするのです。この過程で、消費者は各レストランの価格情報についても把握するようになります。この時、各レストランとしては、訪れてくれた客が他の店に流れてしまうのを防ぐために、価格を引き下げるインセンティブを持つようになります。つまり、消費者の様々な店を検索する意欲が、レストランに価格を引き下げさせる圧力として作用するのです。


一方で、案内板がある場合、客はその案内板を見ることで、各レストランを見て周るというコストを払うことなく、事前に各レストランの特徴を知り、自身の好み(何を食べたい気分か)と一番合うレストランを特定できます。案内板を見て、一番好みに合うレストランを特定した後、多くの客はそのままそのレストランの前に向かいます。そして、価格が許容内だったら、他のレストランの前に行って価格を確認するなどということはせず、好みに合うレストランにそのまま入店するということが多いでしょう。
この消費者行動は経済学的には以下のように説明できます。他のレストランの前までわざわざ向かうという検索コスト(サーチコスト)を払ったところで、他のレストランが、自身の好みと一番マッチしていることが分かっているレストランと比べて割安とは限らず、足労が無駄足になる可能性が高いのです。そのため、合理的判断として、消費者は一番気に入ったレストラン以外の価格情報は調べに行かないということになります。自身の好みとマッチしているレストランを事前に知ってしまった以上、多くの消費者はそのレストランにそのまま向かい、他のレストランの価格情報をわざわざ調べなくなります。つまり、案内板が存在しないときと比べて、自発的に検索する目的が少なくなるのです。案内板がない場合では、消費者はより自身の好みに合っているレストランを探すために各レストランを周る意欲が強いですが、案内板がある場合はその必要がなくなってしまうのです。
各レストランの価格を消費者が把握していない場合、価格弾力性が小さくなるため価格競争は緩和されます。つまり、案内板があったほうが、価格競争は緩和されるのです。重要なことは、案内板には各レストランの価格情報は載せないことです。

以上のように、各サービスの、価格以外の特徴を簡単に比較できるようにすることで、消費者の自発的な検索をする動機を小さくし、価格情報を把握しないように仕向けることによって、価格競争を和らげることができます。何かの商材を購入する時、各社商品の価格情報を知る前に、一番好みに合う商品を特定できた場合、それ以外の商品の価格は調べることなく、すぐにその好みの商品を買ってしまうというのは、実際の人の購買活動に見られるのではないでしょうか。このような消費活動を促すことで、価格競争を抑えることができます。そのために、案内板や無料のガイドブックなどを、業界で協力して発行するなどの手法が、価格競争を防ぐために有効かもしれません。ただし、価格情報は載せるべきではありません。


無料案内所が価格競争を緩和する

観光地には無料観光案内所があります。また、夜の街には無料案内所などがあります。無料案内所が価格情報を利用者に対して曖昧にする場合には、各サービス(観光施設やキャバクラ)の価格競争が緩和されている可能性があります。

仮にこのような案内所がない場合を考えてみます。消費者は自身の好みと一番合う店舗を特定したいと考えます。案内所がない場合、特定するには自発的に各店舗の前まで行ったりネットで調べたりする必要があります。その過程で、消費者は各店舗の価格情報を把握するようになります。

一方で、「各消費者の好みとマッチする店舗を提示してくれるが、価格情報については曖昧な情報しか提供してくれないような無料案内所」がある場合を、考えてみます。消費者は無料案内所に行くことで、検索コストを払うことなく、自身の好みと一番マッチしている店舗を教えてもらえます。案内所では各店舗の正確な価格情報を教えてくれないので、もし各店舗の価格を知りたい場合は自分で自発的に調べる必要があります。多くの消費者はこの時、おすすめされた店舗にそのまま行き、わざわざ足を運びその他の店舗の価格を調べたりはしなくなるでしょう。サーチコストを払って検索したところで、自身の好みと一番合っている店舗が他と比べて割高ではあるとは限らないため(検索が無駄になる可能性があるから)です。案内所がない場合と比較して、自発的に検索をするインセンティブが小さくなるのです。自身の好みに一番合った場所を知った以上、他の店舗の価格を調べず把握もせずに、案内所でそれぞれ紹介された店舗に消費者はそのまま行くようになります。 

重要なのは、消費者が価格を把握していない場合の方が、価格弾力性が小さくなり価格競争は緩和されるということです。つまり、このような案内所が存在したほうが、価格競争は緩和されるのです。案内所が各顧客の好みに合う店舗を提示することで、顧客の自発的に検索するインセンティブを減らし、各店舗の価格情報を把握しないよう仕向けて、価格競争を和らげることができるのです。

競争している競合他社と協力して、このような無料案内所を開設することによって、価格競争を緩和することができるかもしれません。ただし、無料案内所では価格の詳細な情報を利用者に隠す必要があります。


まとめ

消費者が自発的な検索をする理由を減らしてしまい、価格情報を把握しないように促す、というのがこの記事で取り上げた理論のアイデアです。そのために、商品の特性と各消費者とのマッチ度について、消費者が事前に簡単に知ることができる状況を作り出すことが有効で、その手段の例として案内板や無料案内所のケースを紹介しました。このような施策を打つことで、業界の価格競争を緩和できる可能性があります。重要なのは、「消費者が各社商品の価格情報を把握するより前に、自身の好みとマッチする商品を把握できるよう、促すこと」です。

そして、このような施策は独占禁止法上、全く問題ありません。

この記事は役に立ちましたか?

もし参考になりましたら、下記のボタンで教えてください。

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。