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差別化とサーチコスト

参考文献

Anderson, S. P., & Renault, R. (1999). Pricing, Product Diversity, and Search Costs: A Bertrand-Chamberlin-Diamond Model. The RAND Journal of Economics, 30(4), 719–735

キーワード;sequential search


はじめに

一般的には、水平的に差別化されていればいるほど、あるいは顧客の多様性への嗜好が高まるほど、価格競争は和らぎます。しかし、サーチコストが存在する場合には、これとは真逆の作用が発生します。つまり、差別化度が大きくなることが価格競争を激しくし、反対に商品の同質性が価格競争を和らげるという作用が発生するのです。サーチコストとは、商品の価格や特性などの情報を得るためにかかる様々な(時間的、心理的など)コストのことです。

差別化とサーチコスト

サーチコストが大きい時に、差別化が価格競争をもたらしてしまう論理を説明します。消費者は、まずサーチコストを払い1つ目の商品について調べ、その後その商品を買うか、あるいは追加的なサーチコストを払って別の商品について調べるかどちらかを選ぶと仮定します。(このような検索方法は、逐次的検索(sequential search)と呼ばれます。実際の人間の購買活動に即していると言えます)

差別化度が小さいほど、どの商品を選んでも効用の差は大きくありません。差別化度が小さいという事前情報を知っている時、消費者はあてずっぽで買ったとしてもあまり損はしないです。たくさん調べたところで、新たに見つかる商品はすでに知っている商品に似ているはずなので、追加の検索の期待効用が小さくなり、それがサーチコストを下回ってしまえば検索を行わないようになってしまいます。サーチコストを追加で払ったところで、新たに見つかる商品の価格が最初の商品よりも低いとは限らず、新たに見つかる商品の特性は最初の商品と似ているため、追加的に検索する理由がとても小さくなるのです。

一方で、差別化度が大きいほど、どの商品を選ぶかで効用に大きな差が生まれます。そのため、あてずっぽうで買うのではなく両商品をしっかり調べて自分の好みに合う方を選ぶようになります。つまり、追加分の検索の期待効用がサーチコストを上回り、検索行動が活発になる傾向にあります。

ここで重要なのは、検索活動が活発であるほど価格弾力性が大きくなるということです。各商品の特性と自身の好みとのマッチングを把握するための検索が活発にされているほど、結果的に各商品の価格情報を把握するようになります。以上の論理より、サーチコストが存在する場合、差別化度が大きいほど商品検索が活発になり価格競争が激しくなってしまう作用が発生します。差別化をするほど価格競争が緩やかになるという一般的な常識とは真逆の作用です。商品が差別化されていないことが、顧客による検索量を減らすことを通じて、価格競争を緩和させるということです。


ケース

観光地には、似たような商品やサービスを売る店がたくさんあるのに、高価格が維持されている現象が散見されます。直感的には、差別化されていないサービスが大量にある場合には価格競争は激しくなるはずです。この現象について、上記の理論で説明できます。つまり観光客は、どの店も似たようなサービスが売られていると予想して、わざわざサーチコストを払ってまで各店を比較検討しないのです。(観光客というのは、観光できる時間が限られていて、なおかつ検索する代わりに他の場所を観光することができるため、機会損失的にサーチコストが高いです。)つまり観光客は各商品サービスの価格を把握しないため、価格弾力性が小さくなり、価格競争が高価格が維持されているのです。

もし、十分に異なるサービスが提供されていて、そのことを観光客が把握している場合はどうなるでしょうか。彼らには、自身の好みと適合する店舗を特定する動機が生まれ、検索を活発にするようになるはずなので、その過程で各店舗の価格を把握するようになるでしょう。消費者が各店舗の価格を把握するようになると価格弾力性が大きくなるので、価格競争が起きやすくなってしまうはずです。

戦略への応用 ~コモディティで価格競争を緩和する方法~

この理論を用いて、業界全体で差別化がされていないコモディティ商品の戦略を考えます。一般的には、差別化されていない商品同士の競争では価格競争が起きやすくなるとされています。ですがこの記事でみたように、差別化がなされていないことをむしろ活用して価格競争を抑えることができるかもしれません。つまり、サーチコストを大きくし、「どの商品も似たり寄ったりなら検索しなくてよい」と消費者に思わせることで、消費者の検索活動を停滞させ各商品の価格を把握しないように促し、価格弾力性を小さくするのです。価格弾力性が小さくなると、価格競争は緩やかになります。

まとめ

サーチコストが大きく、各商品の特徴や価格などの情報を手に入れるのにコストがかかるような商材においては、差別化していることを強調しすぎると、かえって顧客の商品検索が活発になり価格競争が激しくなってしまう可能性があります。差別化度が小さいほうが、サーチコストの存在に起因する検索量減少の恩恵を受けることができる ということです。

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