参考論文
Diamond, P. A. (1971). A Model of Price Adjustment. Journal of Economic Theory, 3(2), 156–168
はじめに
この記事では、ダイアモンドパラドックスという理論と、それに即した戦略を提案します。ダイアモンドパラドックスとは、消費者にとって商品の価格や特性を知るのにコストが少しでもかかる場合、複数の企業が競争していたとしても価格共謀が維持されて、独占価格も維持される可能性があるという理論です。このコストのことを以下ではサーチコストと呼びます。具体的には、少しでもサーチコストが存在する場合、プレイヤーの信念を操作することで価格弾力性を小さくし、価格競争を抑止するという戦略を提案します。
ダイアモンドパラドックス
複数の売り手による価格共謀が維持されている状態を初期状態として考えます。同時決定ゲーム的に考えます。買い手は、サーチコストを払っていないと、一部の売り手の値下げを感知することができないとします。買い手にとっては、売り手の一つが値下げ(価格共謀からの逸脱)を選ぶ場合には、サーチコストを払うことが合理的になります。一般的には値下げ額は検索コストを上回るからです。反対にどの売り手も値下げをしない場合(価格共謀が維持される場合)にはサーチコストを払うことは非合理になります。この場合サーチコストを払っても価格は変わらないため、サーチコスト分損してしまうからです。売り手としては、もし買い手がサーチコストを払っていた場合は、裏切り値下げによって競合から客を奪うことができるので値下げが合理的になります。一方で、買い手が検索コストを払っていなかった場合は、値下げをしたことに気づいてもらえないため、競合から客を奪うことができずただ価格が下がるだけなので(価格弾力性が小さい)値下げは非合理です。つまり、ナッシュ均衡が2つあるコーディネーションゲームとなっているのです。 買い手にとっては、値下げが起きると予想する場合はサーチコストを払い、値下げが起きないと予想する場合はサーチコストを払わないということになります。売り手にとっては、買い手がサーチコストを払うと予想する場合は値下げし、サーチコストを払わないと予想する場合は値下げしないということになります。この時、「買い手がサーチコストを払わず、どの売り手も価格を下げない」均衡が維持されると、価格共謀が維持されるということになります。この均衡が成り立ってしまうというのが、ダイアモンドパラドックスの理論です。
価格共謀を維持する方法
売り手としては、価格共謀を維持するために、このダイアモンドパラドックスを利用する手があります。価格共謀を維持するためには、上でみたように価格弾力性を小さくする必要があります。そのためには、サーチコストを買い手が払わないように促し、そのことを売り手間で共有という手段が考えられます。
ゲーム理論の考え方を使って、価格弾力性の期待値を小さくし、価格共謀を維持しやすくする戦略を提案します。
価格共謀から逸脱する売り手の出現を防ぐには、各売り手が思う価格弾力性の期待値を小さくすることが必要です。そのためには、買い手が検索コストを払わないだろうと、各売り手が予想していること、それを突き詰めれば、「売り手は値下げをしてこないだろう」と買い手は予想しているだろうと、各売り手が予想している状態にすることが重要です。
つまり、検索コストがわずかにでもある場合、売り手同士協力して、値下げは起きないだろうという雰囲気を買い手の中で醸成し、そのことを各売り手にも認識させることだけでも、理論的には価格競争は抑止できる(価格共謀から逸脱する売り手の出現を防げる)ことになります。もし検索コストを大きくすることなどできなくても、以上のようにプレイヤーの共有予想を操作することだけで価格競争を抑止できるのです。
逆を言えば以下のようなことが言えます。自社が、(値下げの意図がなかったとしても)もうすぐ価格を下げるかもしれないとジャブを打ったとする。「それを察知した買い手は価格に敏感になって検索コストを払うようになるのではないか」と予想した競合他社は逸脱インセンティブを強めることになります。買い手が検索コストを実際に払うようになると、値下げをしたときの価格弾力性が大きくなるからです。つまり、値下げを示唆するだけで本当に価格競争が起きてしまう可能性があるのです。値下げが起きると買い手に誤解されるような行動をしてしまうと、本当に価格競争が起きてしまうのです。
マクロ経済状況などから、買い手が値下げを期待し始めた時は、このコーディネーションが崩れてしまいやすいです。このようなシチュエーションでは、買い手は値下げを期待して検索コストを払うようになると予想されるため、売り手の考える価格弾力性の期待値が高まってしまい、売り手の値下げインセンティブが高まってしまうからです。
コーディネートの均衡が崩れないようにする必要があります。
フォーカルポイントの利用
値下げの期待を抑制する
買い手に対して値下げが起こらないという信念を持たせることで、サーチコストを支払ってまで価格情報を収集しようとするインセンティブを減少させ、価格弾力性を低下させます。
売り手同士が協力し、値下げが起きないという共通認識を醸成することで、買い手の値下げ期待を抑え、サーチコストを支払わないよう促すことが可能です。
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