株式会社エコノミクス&ストラテジー

顧客数と価格共謀

参考論文

Besanko, D., Dranove, D., Shanley, M., & Schaefer, S. (2017). Economics of Strategy (7th ed.). Wiley.


価格競争の激化を防ぐために企業が暗黙の了解で価格を維持する「価格共謀」。この共謀がどのように形成され、維持されるかについては多くの研究がなされていますが、本記事では 「顧客数の増加が価格共謀に与える影響」 に焦点を当てます。

顧客数が増えると共謀は維持されやすい

通常、価格共謀が成立するためには、企業同士が暗黙のうちに価格を高く維持することが求められます。しかし、一部の企業が裏切り行為(こっそり値下げを行い、市場シェアを奪う)をすると、共謀関係は崩れます。裏切りをするかどうかを決める際の判断材料となるのは、逸脱による利益と、将来の罰(価格競争)の重さの比較です。共謀関係を維持するには、逸脱による利益を小さくする必要があり、そのためには裏切りが競合に発覚するまでのスピードを短くすることが必要です。バレるまで時間がかかる場合、その分だけ逸脱利益を得ることができるため裏切るインセンティブが大きくなります。反対に、すぐばれてしまうという場合には、すぐに仕返しをされてしまい逸脱利益が小さくなるため、裏切るインセンティブが小さくなります。

そのため価格共謀を維持するための1つの手段として、裏切ったときにそれが競合他社にバレるスピードが速い、ないしそのような共有予想を各社が持つような仕組みを構築することが考えられます。

ここで重要なのが 「顧客数の多さ」 です。他社の値下げが発覚するのは、顧客を通じてが多いです。1つの顧客から、値下げが一定期間内に他の売り手に漏れてしまう確率を一定とすると、当然ながら顧客数が多いほど値下げがすぐに発覚する確率が高くなります。そのため、企業は裏切るリスクを避ける傾向が強まり、結果として価格共謀が維持されやすくなるのです。Economics of Strategy という著名な書籍に詳しく記載されています。


川下企業の増加が共謀を強化する

具体例を挙げると、供給企業(サプライヤー)にとって川下市場の企業数を増やすことが、サプライヤー市場での価格共謀を維持する戦略になり得る という点です。

例えば、ある部品メーカーが存在するとします。このメーカーが競争相手と協力し、最終製品を製造する企業(川下企業)の市場参入を促進するとということが有効な戦略になるでしょう。川下への参入増加は、川下での価格競争を促し部品の需要が増えるというメリットや、買い手の交渉力の低下(ファイブフォース)といったメリット以外にもあるのです。川下市場の企業数が増えることで供給企業にとって価格共謀がしやすくなるのです。顧客数(川下企業数)が多いことで、共謀から逸脱してもすぐに競合他社にばれてしまうと各サプライヤーに予想させ、価格共謀からの逸脱のインセンティブを弱めることができるのです。

まとめ:顧客数の多さは共謀の安定性を高める

以上の議論から、顧客数の増加は企業間の価格共謀を維持する要因となる ことが分かります。顧客数が増加することで、確率的に裏切り値下げが競合他社にバレるスピードが速くなり、裏切るインセンティブが弱まるからです。特に、川下市場の参入者を意図的に促すことで、サプライヤー企業は価格共謀をしやすくなります。

価格競争のメカニズムを理解し、市場の動向を予測するうえで、顧客数が果たす役割は非常に重要なポイントとなるでしょう。

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