はじめに
価格競争を緩和するためには、価格弾力性を減らすことが重要です。つまり、価格を1単位減らした時に競合から奪える顧客の割合が低くなるようなメカニズムを作り出すことが必要です。そのために、価格を下げた時に逆に需要が減る作用である、負の所得効果の論理を用いることができるかもしれません。価格を下げた時に需要が減ってしまう作用である、負の所得効果が存在することを競争する各社に認識させることができれば、価格競争の発生を抑止できるかもしれないのです。
代替効果と所得効果
まず、ある商品の価格が下がったときに発生する2つの効果について説明します。それは、「代替効果」と「所得効果」です。ここでは、コメについて考えます。
代替効果
代替効果とは、ある財の価格が下がると、それが相対的に他の商品よりも割安になるために、消費者がその財を選びやすくなる現象です。
たとえばコメの価格が下がれば、パンやパスタといった他の主食に比べてコストパフォーマンスが高くなるため、多くの人が「パンの代わりにコメを食べよう」と考えるようになります。この効果だけを見ると、価格が下がればコメの需要は当然増えるはずです。
所得効果
一方、「所得効果」はやや複雑です。通常、ある商品の価格が下がると、消費者の可処分所得(実質的な購買力)が増えることになります。この時、負の所得効果と呼ばれる作用が働く可能性があります。負の所得効果とは、価格が下がって実質所得が増えても、「生活に余裕ができたから、もっと良いもの(高級な食品や他の主食)を買おう」と考え、コメの購入量が減る作用のことです。コメが安くなると一見買いやすくなるように思えますが、「安い食事を選ばなくてもよくなった」という意識が働き、代わりにパンや肉などの他の食品を選ぶ人が出てくる可能性があるのです。このような、負の所得効果を持つ商材を、劣等財と呼びます。
一般的には、負の所得効果よりも代替効果の方が大きいため、価格が下がったら需要が増えます。一方で、負の代替効果の方が大きくなり、価格が下がると需要が減る場合があり、そのような財をギッフェン財と呼びます。
戦略的示唆
以上の議論を踏まえると、劣等財の競争においては価格弾力性が小さいということになります。劣等財においては、価格を下げると確かに他社から顧客を奪えるという作用がありますが、反対に負の所得効果により代替材に需要が流れてしまう作用も発生するからです。この負の代替効果を、競争する各社間で戦略的に共有、強調することで値下げを抑止できる可能性があります。
競っている商材には劣等財の性質があり、値段を下げると他の代替品に需要の一部が流れてしまう作用がある、ということを競争する各社に、何かしらの形で共有、伝達することで、価格競争を抑えられる可能性が高いです。価格を下げても負の代替効果により代替品に需要の一部が流れてしまう、あるいは価格競争が激しくなったら代替品に総需要の一部が流れてしまう、と各社が予想すれば、少なくとも心理的には値下げを控えるようになるでしょう。このように、負の所得効果の存在の戦略的伝達は、価格競争の抑止をもたらし、各社の利益を大きくする可能性があります。負の所得効果を、価格競争を抑止する口実、ないし牽制材料として機能させることができるのです。
独占禁止法
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